#10 特訓と精霊④




次の日に行われたのは水上訓練。

四方を海で囲われたここ日本では、全戦闘の約99%は水上での戦闘だ。そのため水上戦闘用の武器や移動兵器が多数存在している。

その一つがこの水上移動補助ユニット<MOS4>。


水上移動補助ユニット<MOS4>は高速で移動できるサーフィングボードのようなもので、約4年程前まで日本防衛軍が正式採用していたものだ。この水上移動補助装着は水の上を地面の上のように走る事ができる。これは昔咲夜と咲夜の両親が一緒に開発した魔法具だ。

咲夜が5歳の時、その圧倒的な才能を周囲から期待され、あの箱庭で母親の手伝いをよくしていた。これはその時にできた作品の1つだ。

この4つのアルファベットと数字を組み合わせた独特というか謎のネーミングセンスは咲夜の母親のものだ。

現在は咲夜も咲夜の母親も第一線を退いており、それぞれ別々の事に専念しているが…


そしてもう一つ、今回の海上での訓練で生徒たちを補助する装置がある。それは空中姿勢制御ユニット<AIR7>、使用者の体の周りに半径2mの光の輪を形成し、空中での使用者の姿勢を重力魔法によって自動で制御してくれる。重量に制限があるものの、コンパクトで扱いやすく、こちらも多くの魔法師を救ってきた。もちろんこれも嘉神親子の作品だ。


その日からずっと午前中はこの二つのユニットの操作についての訓練が行われた。

たとえ敵UCを打ち滅ぼすだけの魔法を使う事ができたとしても敵UCに接近しなければ話にならない。そのため徹底した訓練が必要が行われた。


午後はUCについての勉強。

UCの生息地、特性、行動パターンなど知っているだけで大きなアドバンテージとなる。

勉強ができる組である結人、咲夜、大和、桃は問題なくこなしていたが、勉強ができない組である樹と雷華は頭を悩ませていた。


樹レベルになると探知魔法などを使わなくても持ち前の実力で薙ぎ払う事ができるため樹はUCに関する情報を必要だとは思っていなかった。


樹はこのような理由があるため仕方がないが、問題はもう1人の方だ。




「ねぇ雷華、ここの回答…『合成魔法における利点と難点を述べよ。』って問題の答えがどうしたらこうなるんだよ?」


「あはは~。昔から座学は苦手で…」


解答欄に書かれいたのは『強くなると、使うのが難しい。』だった。

確かにその通りであるが、適当に答えるにも程がある。

見た感じだとおそらくクラスで一番『基礎魔法学』に関する知識が乏しいだろうなのに…


「どうして『基礎魔法構築論』や『基礎魔力操作論』とかが壊滅的なのに『空間魔法論』や『時間魔法論』みたいな難しいのができるんだよお前は。」


樹の突っ込みはもっともだ。

前者に比べて後者は理解するのが非常に難しい。というよりこれは…


【結人さんが以前に発表した理論ですよね、懐かしいです。】


【まぁあれは作った所までは良かったけど、実際に扱える人なんて数人しかいないという失敗作だけどね……僕も時間遡行し…】


【結人さんならできるようになると思いますよ。】


【もうちょっとで今研究しているのが完成したら頑張ってみるよ。】



「それはもちろんあの黒白様が発表した理論だからですよ!この美しい魔法式!見ているだけで天国に行けそうです…」


(雷華は果たしてこの理論を理解しているのだろうか?まぁまずないだろうな…)




放課後は、チーム練習と個人練習を行った。

結人との練習によって空は着々と実力をつけていった。




           *




結人の好きな物の一つに温泉がある。

仕事のことを忘れてゆったりと出来る温泉が唯一の安息の地と呼べる場所だった。


「は~なごむな~。いつもなら咲夜が乱入してくるけど…静かな温泉もいいな~」


咲夜の実家には、露天風呂がある。

昔は一日中魔法の練習に明け暮れていた、その疲れをとるためにそこを利用したものだ。

父さんと入っている時は大丈夫なのだが、一人で入っている時はものすごく危険だ。

最初のうちはあまり気にしていなかったが、軍に入隊した時ぐらいから、妙に意識してしまうようになっていた。

そのため妨害魔法や結界魔法で侵入を防ごうとしたが、ことごとく突破されてしまった。

戦績は86戦86敗つまり全敗だ。

おかげさまでその類の魔法が軒並み上達したことは言うまでもない。それは咲夜も同じ事だが…


このような理由から結人は温泉に1人で入ったことがなかったので新鮮な気持ちになる。


湯に浸かってしばらくすると見知った顔の少年がやって来た。


「よお、こんなところで会うとは…お前も温泉はよく来るのか?」


「そうですね、1週間に1回程度でしょうか。」


「俺もそのぐらいだ。ところでその手首の傷跡、治さないのか?」


魔法が発展した現在では、大抵の怪我や病気は一瞬で跡形もなく治すことができる。そのため、傷跡を残す人はほとんどいなかった。


「…これは昔色々とありまして、それを忘れないためにあえて残しているんですよ。」


「まぁいいや……いよいよ明日だな…」


「そうですね…実は僕、結構緊張しています。」


この言葉に噓はない。自分がどれぐらい動くべきか、それを悩んでいた。

第一に考えるべきことは生徒の安全を守る事、でもこれは結人ではなく護衛役である樹の仕事だ。

なら何をすべきだろうか。今も考えている途中だった。


「やっぱり緊張するか…俺も不安ではある。これでよかったのか、もっと準備する事が出来たのではないかってな…」


「どうなんでしょうね。僕も何度か考えた事があります。僕の行動が本当に為になっているか、今何をすべきなのか。」


「…お前も色々と考えがあるんだな。詮索する気はないが、興味はあるいつか教えてほしいものだな。」


「いつか……伝えられる日が来るかもしれませんね。」


「そんな日が来ることを…願っているよ、じゃあな。」


そう言い残し空は温泉を後にした。

再び静かな空間がやって来る。


「いよいよ明日か、さてどうなることやら……」




        *



翌日の明朝、訓練の出発式が行われた。


「私から皆さんに伝えるべき事はただ一つ。UCを決して侮らないで下さい。彼らは攻撃を待ってくれません。今回の訓練であなた方に課された最大の目標はです。例年と異なり1年生と2年生による訓練、私も正直不安な点もありました。ですが、あなた方ならば出来ると信じております。お気を付けて。」


「「「はい!」」」


そして、10日間に及ぶ特別実戦訓練が始まった。




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いよいよスタートします!

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