#18 親善試合は楽しむもの①

魔眼ーーそれはまだ世界が混沌に包まれる前、人間が生み出したである。

その能力は魔力を帯び、全てを見通す力を持つと言われたり、周囲の魔力を操ったりする事が出来ると言われている。

ただし、実際にそのようなものを持つ者がいるわけではない。固有魔法による戦闘が主流となる現代魔法学においてもし魔眼が本当に存在しているとしたらそれは世界中が注目するレベルの事柄だ。魔法を使えば視力などを強化する類の事ならできなくはないがそれは所詮は魔眼ではなく魔法だ。

遺伝子組み換えを使えば、そのような人間が作れるかもしれないが、非人道的という理由で、人間の遺伝子組み換えは現在禁止されている。


ゆえに僕はここに断言しよう、魔眼と呼べるものはこの世界に





「皆に伝えなければならないことがある。来月の頭に毎年恒例の大阪校との親善試合が行われる。そのメンバーがこのクラスから5人+補欠1人が選ばれた、水篠大和、桐山雷華、仙洞田樹、嘉神咲夜、そして藁科結人。補欠に和良楢 桃の6人だ。異論のあるものはいるか?」



入学から2週間、結人たちはすっかりこの学校の色に染まっていた。

昼間は学校生活を満喫し、夜は咲夜とイチャイチャしていた。

イチャイチャしかしていない気もするが、気の所為だろう。


結人の実力は毎日行われる実技訓練でその高さをよく知られていた。中には結人ととの模擬戦を望む者もいたが、結人はその全てを受けると返り討ちにしていた。そのため、多くの生徒がこの結果に納得していた。

そんな中、一人の少年が異論をとなえた。


「おい、ちょっと待て!この封印されし最強の魔眼をもつ、この我こそ代表にふさわしい。実力で白黒つけようじゃないか、どちらが真の支配者かを証明してくれようぞ。」


右眼に眼帯をした黒髪の少年は先生にそう訴えた。

魔眼がこの世に存在しないことを当たり前のように知っている生徒は思わず言葉を失う。



【結人さん、先ほどの話本当なのでしょうか、彼の目からは特に何も感じませんが・・・】


【僕も何も感じないけど・・・もし本当に存在したとしたら大発見だね。今は固有魔法での戦闘が主流だけど魔眼の時代が来るかもしれない。本当だったらだけど・・・】


2人は密かに魔眼が実現することに期待を寄せていた。

魔眼が実在したらどのようなものなのか興味しんしんだった。



「・・・そ、その意気は尊重するぞ。」

「では、先生、早速・・・おい、今呼ばれた奴ら出てこい。この我が直々に相手をしてやろう。漆黒の闇が疼くぜ。」


力也は間髪を入れずにそういった。


「ちょっと待て空野、慌てるな。戦うのは許可しよう、だがここではやるな。訓練場に行くぞ!!!」


「チッ、わかりました・・・」


先生さえも力也の圧倒されていた。まぁいきなりあんなことを言ったらそりゃそうなるわな・・・


先生に先導されて僕たちは訓練場に向かう事になってしまった。







「ルールは簡単だ、片方が気絶するか降参するかまでだ。さぁ誰に挑戦する?選んでいいぞ、空野」



「同年代最強や雷帝が代表に選ばれるのであればこの最強の魔眼を持つ我にも理解できる、だがお前が選ばれることは我が魔眼が否定している。出てこい藁科結人!!!」


力也は結人を指を指しながらそう言った。少年は続ける。


「それにお前には気に入らない点がもう一つある。それは我が妻(予定)である咲夜ちゃんとこの我を差し置いていつも一緒にいることだ!!!我と咲夜ちゃんは前世から結婚する運命だったのだ。お前なんかが釣り合うわけがないさっさと手を引け!!!」


それを聞いて思わず唖然とする。

未来視を使う事ができる魔法師は存在するが、前世がどのような人だったのかを知る魔法なんてあるわけがなかった。

ちなみに理由が完全な下心な点はスルーすることにした。


「ねぇ結人さんちょ~とあいつむかつきます。殴・・・話し合いがしたいのですがいいですか?いいですよね?」


咲夜はこれまでにないほど怒っていた。

こんなに怒っている咲夜は今まで見たことがない・・・

まるで世界を崩壊させるほどの力をもつ鬼のようだった。

人類を滅亡させることができるのようだった。


普段優しい人ほど怒ると恐ろしいものだ。そして隣にいる僕の婚約者様もその例の一人のようだ・・・


「結人さん?今何か失礼なこと考えませんでした?」


「いっいえ、まったくそのようなことは・・・」


ぽたりと冷や汗が垂れる。もう一度言うが、咲夜がここまで怒った姿は見たことがない。故に恐ろしかった。



「おいお前!黙っていないでさっさと来い!!!」


「ごめん咲夜ちょっと行ってくるね。あとで甘えさせてあげるからさ。」


「約束ですからね、忘れないでくださいね。絶対ですよ。それと絶対に勝って下さいね。」



結人はゆっくりと階段を降りる。後ろから嫉妬の目が向けられている気がしなくもないが気にせずに舞台に上がる。


結人としては別に親善試合にでる理由はなかった・・・しかし、咲夜の様子を見るに勝たなければいけないらしい。勝たないと殺される・・・

気を引き締めて目の前の相手の分析に専念する。

戦闘における基本中の基本、それは分析。相手の魔力反応や固有魔法のタイプを知る事は大きなアドバンテージになる。予測が立てられるか立てられないかは大きな差が生じる。



「双方構えて、始め。」



「さぁ食らえ!<乱射バレルショット>」


始めの合図とともに力也は両手に構えた2つの黒色のハンドガンが火を噴く。力也は一切の油断もせずに全力で放った。しかしその弾丸は虚しく空を切る。


結人の圧倒的なスピードを前に、鉛の弾など無力だった。

一瞬あっけをとられた力也だったが、すぐに気を取り戻すと次の行動に移る。



「上手に避けたことは褒めてやろう。だが、これはかわせまい、第1段階ファーストショット<火炎乱射弾シューティングフレア>」


力也の弾丸は着弾の1mほど手前で爆発する。が、結人はまたもや何事もなかったかのように魔力障壁を展開し回避していく。

そして爆発しない弾丸はあたかもギリギリでかわしているようにみせながら右へ左へとかわしていた。

段々と弾幕は厚くなっていくが変わらず結人は一度も被弾していない。そもそも真っ直ぐなだけの弾丸など当たるはずがない。


一方、結人の氷魔法による攻撃もすべて軽々と回避されてしまっていた。そもそもあてるつもりがないわけだが・・・


力也はまったく反撃をしてこない結人に嫌気がさしていた。


「どうしたその程度か?そんなことではいつまで経ってもこの我には勝てないぞ。まぁお前の敗北はすでにこの魔眼によって決まっているがな!」




【どうやら魔眼の話は噓のようですね、第一本物であれば私と結人さんの関係が分からないはずがありません・・・さぁ結人さん、遊んでいないでボコボコにやっちゃって下さい。もう魔眼が存在しないことは確認しましたので・・・】


【・・・わかったよ、僕のお姫様】



結人は後退するのをやめるとゆっくりと駆け出す。


「そろそろ終わらせよう、<温度吸収ヒートドレイン><身体強化><反応加速><思考加速>」


結人はゆっくりとそう呟く。

<温度吸収>ーー周囲の温度を吸収して自分の糧とする魔法。そして結人はすぐさまその魔力で自らの身体を強化して突撃する。


結人にとってただの鉛の弾など、止まっているのと同義だった。数多の弾丸をかわし一瞬で背後に回り込んだ結人は力也の首に目にも留まらぬ速さで手刀を放った。


力也は気を失うとその場に倒れた。




「藁科結人の勝利!!」


先生の勝利の合図とともに結人は身体強化を解く。


「すげ~なんだあの動き!」

「かっこよすぎる・・・」

「この年齢で<温度吸収>を使えるとは・・・」


クラスメイト達から拍手をもらう。多くの生徒にとって結人の動きは目に見えなかったはずだ。そしてその速度に圧倒されていた・・・


【流石私の結人さんです!とってもかっこ良かったです!】


【いつも見ているでしょ、咲夜は。】


【かっこいいものはかっこいいのですよ。まさに私の王子様!大好きです、結人さん】


咲夜はいつもの可愛い咲夜に戻ったようだ。結人は機嫌が戻ったようでほっとした。

それから結人は樹と大和の所に戻る。


「お疲れ結人、いつもながら圧倒的だったな。」


「すごかったよ結人。<温度吸収>なんて実際見たのは初めてだよ。それと氷魔法が得意なことを考えると温度に関係した魔法が得意なんだね。」


「まっまぁ、そんなところかな・・・」



後日、他のメンバーにも挑むが、その全てに返り討ちにあった。

特に咲夜は彼を氷漬けにしてしまったが、それはまた別の話、その後正式に代表メンバーが決定した。

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