第十一話(2)
勉強のやる気も無くなった俺でも、流石に受験前になると、やばいと感じ、勉強した。
それでもベストは出せず、智と約束していた学校には落ちてしまった…
でもこれで良かった。新しい自分を作るには、誰も知り合いが居ない学校が1番良い。なんなら友達なんて居なくて良いとさえ思っていた。
そんな高校の日常でもある、ある日の事だった。
俺は授業中、いつもの様に先生の話を聞かずに寝ていたのだ。
「はぁ…」
誰かが大きめのため息を吐き。
バンっ!と机叩く
「移動教室!」
「ん…ありがとう」
俺は誰かに起こされた。
冴えぬ目でその人物を見ると、そこには高校で友達になった優凪の姿があった。
友達と言っても、最初に友達になった尋樹と双子だから一緒にいるだけだが…
「優凪、わざわざ教えてあげることなかったのにぃ」
「そうだよ!優凪ってほんと優しいよね」
「なのに、何あの態度。ん、ありがとう。だって!ウケる」
優の友達は俺の事を馬鹿にしながらそう言った。優は笑いながらも
「そんなのどうでも良いから行こうよ」
「そうだね」
俺から友達を避けてくれた。
そう思ったのは俺だけかもしれないが…
ただ、その日はいつもの様に寝ていても、いつもとは少し違った。
「おい、佐倉!起きろ!」
ばしっ!と先生に頭を叩かれる。
「いってぇ」
正直、体罰だなんだと言ってやりてぇ…
「あれの答えは?」
「…」
俺はしばらく答えずに、ノートを指でなぞった。今どこをやっているのか分からなかったからだ。
「答えられないなら寝るなよ」
先生は黒板の方に戻りながら言う。
俺は黒板とノートを見返しながら、自信なさげにこう言った。
「28…」
「え…?」
先生は俺の声に驚き、振り向く。
「違いました?」
「いや…正解」
「そうですか。」
驚く先生に構わず、俺はまた突っ伏して寝た。とは言っても、完全には寝ていない。目を
「ねぇ、何あの態度。」
クラスの女子は、恐らく俺の事が嫌いだ。
なんせ俺は、顔を髪で覆い隠し、眼鏡をかけている。
そのくせ授業では寝ていて、完全に舐めているからだ。
「さぁ?答えられたからってイキってんじゃないの?あんなの学年一位だったら答えられ…」
何があったのかは見えないが、女子の話し声が止まった。
「めっちゃ悩んでるけど?」
優が女子達に言う。
まぁ…応用問題だったしな。
俺でも昨日家で解いていて、30分はかかったくらいだし。
「うそ…」
「ねぇ、佐倉って何位だっけ?」
「学年に200人いて、確か…」
俺が一瞬目を開けると、優が話している女子を突いて、何かを渡していた。
「何?」
「これ見て」
「え?2位…!?」
紙らしき物を見た女子は、授業中ではありながら、声を大きくしていった。
「どうした?」
先生に聞かれる。
「いえ、あの…佐倉くんって学年2位なんですか?」
「…それは初耳だな」
どうやら先生も知らなかったらしい。俺ってどんだけ存在感薄いんだか。ま、それが狙いでもあるけど…
休み時間。俺の周りでコソコソと話し声が聞こえた。全部聞こえてるっつうの!
「佐倉が地味すぎて、他のクラスの人はほとんど知らないからあんまり知られてないけど、あいつめっちゃ頭いい」
今度は女子ではなく、クラスの男子だ。
「え、だって…そもそもこの学校のレベル高いのに、寝てるのに?」
「そう…」
そう。俺は智と約束していた、第一志望には落ちたものの、あれはわざと落ちた様な物だった。
そして、ほぼ同じレベルの学校に入ったのだ。
そしてまた別の日。今日は体育があった。
俺はバスケの授業中、全く動かず、コートに入っているのに、端にいた。
元々俺にボールを渡してくる奴なんかいない。数合わせなら、動かなくても良いのだ。
「わー、待ってぇ」
同じ体育館でバスケをやっていた女子のボールが転がってきた。
あちらは運動神経が悪い人が多い様…ボールの取り方も、なんだか変だ。
俺は転がってきたボールを取って、女子に渡す。触れるか触れないかのところで手を離しながら
「あ、ありがとう…」
女子は、俺がボールを取った事に驚いた様だが、素直にお礼を言う。
「あ、佐倉!危ないっ!」
「えっ?」
俺の元へ、男子が投げたボールが飛んできた。俺の後ろには女子もいる。
「きゃあ!」
女子が飛んできたボールを怖がって叫ぶのとほぼ同時に、俺がキャッチした。
顔の目の前でボールを止めている状況。
「大丈夫?」
そのまま、後ろにいる女子に聞いた。
「あ…え?だ、大丈夫。」
恐らく俺がボールを取れたのに驚いているのだろう。普段あまり目立たず、動いているところも見た事がないだろうからな…
「佐倉!大丈夫だったか?」
「あぁ…」
俺は駆け寄ってきたクラスの人に声をかけられ、素っ気なく答える。
「にしても今の瞬発力…凄かったなぁ」
そのうちの1人が、手を顎に添えながら言った。
「佐倉、お前も動け!」
そして、俺の肩に腕を回しながら、笑顔で行ってくる。
別に、自分の運動神経を隠すつもりは無いし、それで良いのだが、あまり目立ちたくは無い。
なんの才能もない俺でも、運動神経はそこそこあった。もちろん、皐月には敵わなかったが…
「佐倉!シュートだ!」
ゴール前にいた俺をこき使う様になってきたクラスのやつが、俺にボールを投げた。
もちろん、キャッチして、華麗にシュートを決めたさ。
そしたら反対で見てた女子達がキャーキャー言って、うるさいのなんのって…
俺の活躍によって、負けていた俺のクラスが相手の点数を抜かした。
そして何より、相手のクラスには、あいつがいた事による失敗が大きかった。
尋は、運動神経が悪い。むしろ音痴なんじゃないかと思うほどに…
「うわっ!」
ほらまた、飛んできたボールを止められずに顔面で受けている。
「おいおい大丈夫か?佐倉とは大違いだなぁ…」
「大丈夫だ。明希と一緒にしないでくれ」
尋は俺と同じなのが心底嫌いらしい。ま、確かに俺は実力を隠していただけだしな。
その日から俺は、体育の時間だけ生き生きしていると言われる様になった。
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