第十話(2)

 そして、順位戦の全てのライブが終わり、順位発表まで、それぞれ時間を持て余していた。


 客に与えられた投票券は2枚。そのうち全てを自分が推すチームに入れても良し。1枚を別のチームに入れても良し。

 まぁ居ないだろうが…2枚を推しのチーム以外に入れても良いのだ。


 俺達のファン2名が入れる中、1名しか来られなかった…だが、そこそこの票は稼げると思っている。いや、そこそこでも十分だ。

 俺達が本格的に活動を始めるのはこれから。ファンもこれから増える予定。

 それでも真ん中くらいの順位には行くと思っているのだが…どうだろうか。


 結果発表を待つ間。俺達は楽屋でゲームをしていた。と言っても、人気チームの投票数を当てるゲームだ。

 もちろん、念の為に録画までしておいて…後でYouTubeに上げる可能性もあるからな。

「私ね!flare《フレア》が249だと思う!」

 優は自信満々に、微妙な数を答えた。

 このゲームはピッタリじゃなくて良い。5の範囲であれば、当たりなのだ。

 そして、今日の客は800人。つまり投票数は計1600だ。


「微妙なところを突くなぁ…」

 俺は思った事を口に出してしまう。

 flareは人気は高いものの、そこまでファンは多くない。その原因としては、新曲が少ないのだ。

「俺はflareは、450くらい行くと思うけどなぁ」

 flareは2年生チームで、今日は久しぶりに新曲をやっていた。それが投票数を増やす事は間違いない。


「俺、星のほしのつるぎが600行くと思う」

 尋は星の剣推しだ。今この学校で一番人気があると言っても過言ではない。俺の従兄弟の直葉が居るチーム。

「あれは?1年チームの夜桜よざくら。」

 智は女子チームの名を口に出す。夜桜は5人の和がメインなチームだ。

 実を言うと俺も割と好き。

 和が好きな俺と未来だからだろうか…少し前に家でこのチームを見ていて、騒いでいた事がある。

「夜桜は1年チームだからな…それでも200行きそうだよな。」

「た、確かに…」

「倒すべきはそこかぁ…」

 俺達はゲームをしながら、少し落ち込む。

 本格的な活動をしていないとはいえ、正直言って遅れをとっているのは間違いない。

 加えて、俺達と同じく上手いチームはそこそこある。まぁ2、3チームくらいだな。

「ま、何とかなるよ!」

 俺と優と尋が落ち込む中。智だけは笑顔だった。

「僕らには明希が着いてるし、これから巻き返すんでしょ!」

「あぁ、そうだ」

 智は今日は機嫌が良い。ライブが出来たからだろうか?確かに思い返せば、ライブをしていない期間。智の機嫌が悪かった気がする…

 それか、それなのか?いやでも智は、それ程アイドルになりたくて、俺達と一緒にいるわけじゃないような…まぁ良いか。


 その後も全てのチームを予想し続け、紙に書いておく。

「さぁ!準備が整いました!3位までのチームを発表します!それ以下のチームは、ホームページに貼り出されますのでご覧下さい。では行きましょう!」

 さっき楽屋訪問をしていた先生の声が聞こえ、俺達は耳を澄ます。どうせ選ばれないだろうと、舞台裏にまでは赴かなかった。


「3位はPop Shake《ポップシェイク》です!」

 会場に歓声が響き渡る。2年生チームのPop Shake。

 歌は上手いが、性格は最悪。それがこのチームだ。

 だが、順位戦と言うこのイベントでは、音や声だけで勝負をするから、性格なんて関係ない。

 それだけ、来ている客は公平に選んでいると言えるのだろう。



 1位と2位は知っての通り。

 2位がflare。1位が星の剣。

 俺は1人、廊下に貼り出された順位表を見に来ていた。

「46位か…」

 2学年合わせて100チームほどある中で半分に入れた事は、まぁ許容範囲だ。

「こんなもんか…」

 もう少し行くとは思ってたんだがな…

 俺は何となく気になった鞍馬達のチーム、Gifters《ギフターズ》の順位だけ見て、勝った!と思いながら、帰ろうとした。


「これで満足?」

 俺の横で声がした。聞き慣れたような、聞き慣れない声。

 振り向くと、大人の女性が立っていた。俺から2メートルほど離れた位置に。

 女性は俺の方を見て、もう一度聞く。

「本当にこれで満足?あなたならもっと上手く出来て、もっと上に行けたのでは?」

 俺は女性の言っている意味が、最初こそ分からなかったが、成る程…見抜かれているな。と同時に思うのだった。

「これは俺だけのライブじゃない。だからこれで良いんだ」

 俺は素直にそう答えた。

「実力を隠して、発揮できない事の何が満足なのか、分からないわ。」

「…智と2人だけなら、もっと最高のパフォーマンスが出来る」

 俺は言いたく無かった言葉を放つ。

 でもこれが事実なのだ。俺が本当の意味で最高のパフォーマンスをするには、優と尋はお荷物なだけ。

 未来と2年前。最後に琴をやった時ほど良い演奏は、もう一生出来ないだろう。そのくらいの確信は、少なからず俺の中にはあった。


 だけど俺は、荷物を抱えているとは思っていない。俺はこのメンバーで良いと思っている。

 例え、4人の間にレベルの差があったとしても…

 だから女性にこう言う。

「例え、俺と智だけなら良いパフォーマンスが出来たとしても、チームを変えるつもりはない。

 智と2人でやりたいのなら、このチームでソロライブをやる。そこでなら、何をやっても構わないだろ?」

 だが、言ってから思った。俺はキャラを作れていないと。

 地味で暗くてあまり喋らない。そんなキャラを演じているはずなのに、いつの間にか、前の自分に戻っている気がする。

「なるほど…それが聞けて良かったわ。あなたの最高のライブを期待しています」

 女性がそれを言い終わるのとほぼ同時に、優が来た。


「明希!今ならみんながファンサしてるから、人が少ないよ!かえ……お母さん!?」

 優は俺を見ながら、その奥にいた人物をそう呼んだ。

 成る程…聞き慣れたようで、少し違和感があったのはそういう事か。

「な、なんでここに…」

 優は俺の元へ走ってきて、そう言った。母から1度も目を離さずに

「あら?私はここの卒業生よ?審査員で呼ばれていたの」

 優と尋の両親が、俳優だとは知っていた。だが、ここの卒業生だったとは…

 アイドルから俳優の世界に行く人は少なからずいる。その中の1人なのだろう。もしかすると、父の方も。

「それじゃ、期待はしておくわ」

 優の母はそれだけ伝え、帰っていってしまう。

「追わないの?」

 俺は優が心配になり、聞いた。

 優は固まってはいたが、母に会えた事に喜んではいない様子。

「別に…私あの人好きじゃないし」

「そっか…」

「何も言わないの?」

「何を言って欲しいんだよ。俺は人の家庭に首を突っ込める立場じゃないからな」

「…あんたも大変そうね」

「俺はマシな方だよ」

 そうやって、しばらく2人で話していた。


「あ、そうだ!今のうちに帰らなきゃ!人がごった返すわよ」

「あぁ、そうだったな」

 俺達は急いで楽屋に帰り、待っていた尋と智から荷物を貰って、客の波に飲み込まれないように、早めに帰った。



 そうして1年の1学期が終わり、夏休みが始まろうとしていた。

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