裏「この音は…」
私は
そして私は今、とてつもない感動に打ち
彼の音に感動したのはこれで2回目。
今この瞬間と、4年前のある日の公園。
きっと彼は覚えていないだろうけど、あの公園であなたに出会った事は私にとっての転機だった。
中学の時、彼氏との事でクラスの女子から虐められ、居られなくなった私は、ほとんど学校に行かず、通信制で通っていた。
私の家族に父は居ない。日中ほとんどは母が仕事で出かけており、1人で過ごす日々。
公園の隣の家で、1人で過ごす時間を苦痛に思い始めていたある日。
慣れない手つきでギターを弾く音が聞こえてきた。まだコードも分からない様で、何度も弾き直す音。
その日から、ギターの音は毎日同じ時間になり始め、日に日に上手くなっていった。
私は誰が弾いているのかと、うずうずしていたが、外に出る勇気は無かった…もし、私を虐めて来た女の子達が居たら…そう思うだけで、動けなかったのだ。
それでもそのギターの音を聞いていたくて、公園に一番近い部屋の窓を開け、聞いていた。
「男の子の声がする…」
その子は、ギターを弾きながら歌っている。よく聞き慣れた曲だけど、聞き慣れない綺麗な声。
声変わりをした後の男の子の声なのに、高い音が綺麗に出ていた。
それから毎日、同じ事の繰り返し。ある時間になるとギターの音が聞こえて来て、私は家から聞く。
だけど今日は、久しぶりの登校日で、外に出ていた。
夕方、家に帰ると、またあのギターの音が聞こえて来た。
私は家に入らず、その音を聞きにいく。
その公園でギターを弾いていたのは、フードを深く被って顔を隠した男の子。
私と同じか、年下に見えるその子は、今日もまた、みんなが良く知る曲を弾いていた。
私はその音に惹かれ、彼の元へ歩き始める。
「あの…」
私が屈んで、彼の顔が見える位置から声を掛けた。
正直驚いた。男の子とは思えない程綺麗な肌に、高い鼻。それでも幼い感じが残っていて。
これは…顔を隠すだろうな。と納得した。
「な、何ですか?」
彼は驚いて聞く。
「隣で聞いていても良いですか?」
「あ…どうぞ」
彼の許しをもらい、彼と同じベンチに腰掛ける。
「あ、それ以上近付かないで!」
彼が焦った様に言うから、少し驚いたが、納得はした。
「そうですよね…知り合ったばかりの人と近づきたくはないですよね」
だが、私の考えは違った様だ。
「違います。それは良いんです。けど…それ以上近づいて欲しくないんです。初めて会った人でなくても…」
彼の言った事は、その時は理解出来なかった。少し話して、女性恐怖症という事を知るまでは…
「さっきは馴れ馴れしくてごめんなさい!」
「いえ、良いんです。俺こそごめんなさい。ギターの音、聞きに来たんですよね?」
「はい…」
「今から弾くので聞いていてください」
彼は私の事など気にもせず、ギターを弾き始めた。
私はギターを弾く彼を見ながら、歌いたくなってうずうずし始める。
そしてその勢いのまま…
ベンチから立ち上がって、歌を乗せてしまった。
彼は少し驚いたが、そのまま弾き続けた。
歌い終わって、2人で笑いながら楽しかったと言い合い。彼は家に帰っていった。
その日の夜。彼は雨の中、傘をささずにこの公園へ来た。
私は窓から彼を見つけ、急いで傘をさしに行ってあげる。
近くまで行くと…彼は泣いていた。
何があったのかは聞きはしない。だけどとても辛かったのだろうと、傘をさし、何も言わずにいた。
それからしばらくして、彼の兄らしき人が迎えに来た。
「明希っ!」
そこで初めて、彼の名を知る。明希くんの兄は、彼を抱えて帰っていった。私にお礼を言いながら。
その日から、明希くんの姿を見る事は無くなった。
もう会えないと思っていたのに…
目の前にいて、ライブをしているのは、紛れもなく、あの時の男の子。
だって彼の弾くギターの音が、そう物語っているもの…
私はやっぱり、あなたの音に惹かれている。今の私のチームではなくて、あなたのチームに入っていたかったな…
もし、私達があれからもっと仲良くなっていたら、有り得た話かもしれない…
そんな事を思ったらダメね。
嫌なら引き抜いて貰えば良い。その為にライブバトルが校内で出来るのだから!
Wing Knightsの1曲目。オリジナル曲は、明希くんが作ったものらしい。前にTwitterで歌詞を募集していた。その中から選んだのだろう。
だけど、送られてきた歌詞から、こんなに凄い曲を作れる事は、知らなかった…
私はきっと、明希くんの才能を知らないのだろう…
2曲目のカバー曲。しばらく楽器だけの演奏の後、優凪ちゃんの歌が入った。オリジナル曲では無かったから、みんなも流石に気づいたと思うが、優凪ちゃんは、というかこのチームすごく上手い。
明希くんが歌っていないのが残念だけど、きっといつか歌ってくれると信じてる。あの日の公園のように…
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