第七話(1)

 初ライブの日から数日。俺達の特訓はもう既に始まっていた。

 練習場所は、俺の家の地下。

 俺の家は、外から見れば一見普通の家だが、中に入ると、やはり父親の趣味のせいか、所々に細工がある。本人は家に居ないのに…

 と、いう訳で、俺の家の地下には防音室があるのだ。


「そういえば…オリジナル曲作らないの?」

 優が練習の合間に聞いて来た。

「確かに…高校の時は何曲かあったよな?」

 尋が思い出しながら言う。

「あれ…良いと思うのか?」

「うーん…なんとも言えないわね」

「どんな曲なの?」

 俺達の会話に、智が入って来た。智は、一緒に練習をしたとはいえ、俺達の曲は聞いていないのだ。

「あれな…音は俺が作ったから良いけど…歌詞がなぁ」

 俺には唯一出来ないことがある。

 それは歌詞を書くことだ。他の事はほとんど何でもできるのに、歌詞だけは、自分の考えを表現する事が出来ない。

「歌詞さえ誰かが書いてくれれば、曲作れるのになぁ…」

 俺が一人で呟いていると

「私たちも無理だもんね…」

「なら、募集すれば良い」

 尋が提案をして来た。せっかく公式のTwitterを作ったのだから、と。

「そうよ!歌詞募集ってツイートすれば、誰かしら見てくれるわよ」

「そんなにフォロワー居たか?」

「居ないね…まだまだ無名だし。」

 こんな会話をしながら練習の合間に休憩をしていた。


 言葉では反対をしておきながら、結局ツイートする事に。みんなでスマホを眺める。

「来るかなぁ…」

「来ると良いね」

 そんな会話をしながら…

「さ、続きをやりますか」

「はーい」



 楽器の音や、歌だけが響く防音室。

 智は楽譜と睨めっこしながら、ドラムの椅子に座り、どうしたらカッコよく見えるのか研究している。

 尋はとりあえず、簡単な楽譜で綺麗な音を出す事から始めた。割とセンスが良く、教えるとすぐに出来る。この調子なら、いつか5弦ベースか、ギターを弾かせたい。

 優は、最低音から最高音までの音階をひたすら練習。その後、低い音程の曲と、高い音程の曲を歌わせた。

 優の声は、高い音程の方が綺麗だが、低い音程の方が、迫力が出る。

 俺はそんなみんなを少しずつ指導して行きながら、自分でも7弦ギターの練習をしていた。


 ピコンッ

 練習中。Twitterの通知が入る。

 3人とも、通知を無視して練習している。きっとさっき歌詞を募集した事を忘れているんだろうな。と思いながら、俺はスマホを見た。

「…えっ?」

 入って来た通知を見てびっくり。思わず声を上げる。

「どうした?」

 一番近くにいた尋が尋ねる。

「いや、これすげーな、と思って」

 優も智も自分の練習を中断して、俺のスマホを見る。

「ん?これ全部同じ人から?」

「あぁ…R.Sって人が、長い歌詞をほんの少しの間に、4曲くらい…」

 書いてあったのをコピーしたのか、4曲全てこの数分に送られて来た物だ。

「一人でこんなに書けるなんて凄いね」

「本当、何者なのよ…」

 3人が送られて来た歌詞を眺める中、俺は一人好奇心が湧いていた。どんな曲にしようか、全部使うのか、と。

 急いで6弦ギターを自分の部屋から持って来て、その歌詞に合う様なメロディーを少し歌いながら弾く。ちゃんとメモをして忘れないうちに…

「お!明希に気合が入ったね」

「本当。ふふっ、楽しそう」

「明希、良かったね」

「あぁ!絶対良い物にするから覚悟して置けよ!」

「難し過ぎるのはやだよ?」

「難しい方が楽しいだろ?」

「そうだけど…」

「かっこよさ重視ね!」

 そんな会話をしてから、3人は再び自分の練習に、俺は歌詞に音を付けていた。



 練習を始めたのも何時間前か…もう既に4時になっていた。

「智。今日夕飯どうする?」

 俺はいつものように、智に聞く。

「うーん…帰ろっかな。今聖風邪なんだ。僕が居なきゃ誰も看病しないから…」

「そりゃ、大変だな」

 俺は、智の家の事情を知っているから、何となく放って置けなくなった。

「なら尚更食って行けよ。聖には消化のいい物作ってやるから」

「明希様ぁ…まじ天使」

「俺はどちらかと言うと悪魔だけどな」

「じゃあ、神」

「じゃあ、そう言う事にしておこう」

 正直、俺は神なんて言えるほど、出来た人間では無い。嫌いな人なんて、数え切れないほど居るし、性格も良いとは言えない。

 でも俺は気に入った人間の為なら、進んでやってやる方だ。だから智にも聖にも優しくする。


 人を好きになれない俺がアイドルになったのは、自分を表現するのが好きだからだ。

 昔から周りの人に、天才という言葉で片付けられて来た。それがとても窮屈で、みんなの期待に応えなきゃと、たくさん努力もした。

 だからこそ、自由に表現できる世界。アイドルの世界に飛び込んだのだ。

 例え天才という言葉だけで片付けられたとしても、みんなが振り向いてくれる世界に…

 ほら、自分は人を嫌っているくせに、好かれ様だなんて、おこがましいだろ?

 だから俺は、性格が良いとは言えないんだよ。

 だけど、智が神だと言うのなら、そうあり続けたいとも思った。


「えー、良いなぁ。私達も明希のご飯食べたい」

 俺と智がそんな話をしている後ろで、椅子に跨りながら、優が羨ましそうに言った。

「お前らは家帰って食べろよ」

 俺はそんな優を見放す。

「今日、2人だけなんだよね…」

 尋も優に便乗して、俺を求めてくる。

 そんな2人も、俺のお気に入りだからなのか、やはり放っては置けなくなる。

 こうなったらやけくそだ!

「…あー、もう!じゃあ今日はお好み焼きにでもするか!ほら、買い物行くぞ?」

「やったぁ!」

 優が椅子から飛び降り大はしゃぎ。

 四人で買い物に出かけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る