第三話(2)

「はっ!いけない…つい長風呂をしていた」

 昔の事を思い出していたからか、すっかり夕飯の時間になってしまった。

 僕は急いで風呂から上がり、家族が揃ったテーブルに遅れて席に着く。


「いただきます。」

 家族みんなで手を合わせ、食べ始める。

 僕の家族は両親と、男兄弟が僕を入れて四人。妹が一人。

 どこからどうみたって、普通の家族。会話さえなければ…


「俺、明日デートだから、邪魔するなよ?」

「誰がするか!」

 自慢げに言うこいつは、二番目の兄、すばるだ。

 なんというか…僕が嫌いなタイプで、あまり会話をした事がない。


「おい聖。どーせ暇だろ?朝早いから起こせよ」

「はぁ?なんでてめーの世話をしてやんなきゃならねーんだよ!それくらい自分でやれガキが!」

「お前の方がガキだろ!」

 この昴と言い合いをしている口の悪いやつは、さっき廊下ですれ違った、聖だ。聖は俺の双子の弟で、良く似ているが、性格は何というか…似ていないところも多い。

 僕が昴を無視するのに対して、苛立ちが強いのか、聖はつい反論してしまう。そして後悔するのは自分だという事を忘れて…


「ちょっと二人ともやめなさい!食事中よ」

 母はこんな時、注意をするだけで、昴の言う事に何かを言う事はない。

「智くん。これ食べて?」

よい。自分で食べなきゃダメだよ」

 妹の宵は、高校生でありながら、上に兄が四人もいるせいか、小学生みたいなところが多い。

「そーよ宵。わがまま言ってないで食べなさい」

「母さんは黙っててよ!」

 僕の母は息子が多いからか、僕らに甘い。特に昴には、何でもしてやっている。


「そうだ聖。あんたそろそろ外に出たらどうなの?いつになったら仕事するのよ」

 母はいつも家にいる聖が心配なのか、邪魔なのか、最近はいつも言っている。

「そうだぞ聖。俺を見習え」

 と、昴は言うが、僕からしてみれば、昴より聖の方が良く働いている。

「だから仕事してる。って言ってんだろーが」

 聖は高校の途中から、学校こそ辞めているが、決して何もせずに家にいる訳ではない。きっと大学からアイドルになる事を選んだ僕より、もっと前からデザインの仕事をしているから、お金は沢山あるのだろう。

 対して昴はもう大学も卒業しているのに、ろくに働きもせず、自分のデートですら母にお金をもらっている。

 そんな昴大好きな母が、昴の彼女に嫉妬するのは時間の問題かもしれない…


「お前の方が働いてねーだろーが!」

「高校も卒業していないお前に言われたくはないな」

 果たして、高校を卒業するのが偉いのか…自分のやりたい事、仕事を見つけて高校を辞めるのが偉いのか…どちらとも言えないが、僕は確実に聖の方が偉いと思っている。

 こんな時、いつも父は何も言わない。それに似たのか、一番上の兄、かおるも無言で食べている



 僕はこの家族が嫌いだ。早く家から出たい。


 ねぇ明希…僕は明希が辛い時、助けてあげたよね?今度は明希が僕を助けてよ。



 その夜

 僕が自分の部屋に行くと、聖が机の前に座り、何かに悩んでいた。

「聖。今度はなんの仕事してんの?」

「えっと…あるアイドルに衣装を頼まれてな。金ははずむって言われたから乗っちゃって…」

「なんか悩んでるんだ。」

「あぁ、俺って本当軽率だよな」

「本当だよ。だがら騙されるんだ」

「ちょっと!黒歴史を蒸し返すなって!」

 聖が家に閉じ籠るようになったのには理由がある。

 高校の時、僕と違う学校に入った聖は、ある事を理由に虐められた。聖はあまり教えてくれないから、詳しい事は分からないが、何かに騙されたらしい…だから今でもそれを根に持っているのだ。

「それで?どんなやつなの?」

 僕は聖のように絵を描いたりは出来ない。だけどアイデアを出すくらいなら出来るはずだ。

「黒系で王子とか騎士っぽいのって言われたんだけど…女の方が分かんなくて」

「騎士…ね」

 あー、なんかそんな話を今日聞いた気がするな…デジャヴかなぁ。と思いながらも、僕のアイデアを振り絞って答えを出す。

 ついでに検索をかけて、聖にイメージを伝える

「こういうの?」

 女剣士というよりは、黒服の女王的な感じだけど、他の男の服装からしてもぴったりだと思う。我ながらいいセンス!

「おおー!ナイスアイデア智!ありがとう」

 聖は凄く喜んで褒めてくれた。



「僕明日早いからもう寝るね」

「んあぁ…おやすみ」

 僕は仕事をしている聖の傍で、ベットに入り目を閉じた。

「なぁ智。お前は良いのか?」

 眠りに入る寸前。聖に声をかけられ、目を開ける。

「何が?」

「大学生になってまで俺と一緒の部屋で…俺は夜寝るの遅いから、電気付いてるし」

 何を今更…とも思った。

 多分母は、聖が家に居て、仕事をしているのだという事を信じていない。聖は主にデザインの仕事をしているから、あまり表には出ない為、気づかれないのだ。

 それから僕も、あまり母には好かれていない。だからそんな目の上のたんこぶな俺達を同じ部屋に追いやったのだろう。

 俺はいつかこの家を出て行くつもりでいるが、聖は外に出られるのだろうか…今はそれだけが頭を過ぎる。


「別に今更だし…僕も朝早く出るから、聖の事起こしちゃうじゃん。」

「それは、別に良いんだが…」

「じゃあ、もうこの話は無しね。」

「…そうだな」

 聖は最近情緒不安定なところがある。何があったのかは知らないが、落ち込んだり、昴と喧嘩したりと、忙しそうだ。

 僕はそんな聖を置いて、一人眠りについた。

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