第二話(2)
「ただいまー」
俺と優は、継実家へと帰ってきた。俺達が集まる所はいつもこの家だ。
二人の親は俳優で、いつも家に居ないため、俺達が入り浸っていても迷惑にならないからだ。
俺は先生から貰った封筒を開けた。
「何が書いてある?」
「んーと…」
書いてあった事はこうだ。
・グループで活動する際に立ち上げる。TwitterやYouTubeを公式アカウントにする。
・活動のための衣装をオーダーメイド
つまり、この二つから選べと言う事だ。
「オーダーメイドねぇ…」
俺としては、どっちにするか、既に決まっているが、三人の意見も聞かなければ決められない。
「オーダーメイド良いじゃない!」
「いや、公式アカウントの方が強く出れる」
「明希…オーダーメイドっている?」
と、意見は様々だ。
とりあえず智に聞かれたから、俺はそれに答える。
「いや、そもそもグループのイメージが固まっていないのに、衣装を作るのは危険だ。それに、オーダーメイドなら、俺にだって出来る」
「じゃあ、公式の方にしよう」
尋は、意見が定まると早めに動くやつだ。そのせいか、一人だけ意見が割れていた優を無視してしまっている。
「ま、まぁ…みんながそう言うなら」
当の優は、合わせてくれた。本当はみんなでお揃いの服が欲しかったんだろうな…と、俺が密かに思った事は、秘密にしておこう。
「んじゃ、特典の話はこれで良いとして。グループの名前とロゴを決めとこうか。」
「さっきイメージ決まってないからって言ってなかったっけ?矛盾してない?」
優に若干指摘されたが、関係ない。
「いや、名前とロゴを決めておかないと、宣伝も出来ないからな」
と、ここは尋がフォローしてくれる。俺達はこうやって、誰かがフォローを入れてくれるので、みんな何かとやりやすいのだ。
「ふーん。そっか。なら、グループ名は『Wing』でいいと思うんだけどなぁ」
「それは中学のバンド名だろ」
「今はメンバーも変わってるしな…んじゃ付け加えて、『Wing Knights』ってのはどうだ?」
「翼の騎士?」
俺が出した提案に、すぐさま智が英語を翻訳した。
「そうだ。前のが翼だけなら、俺達が羽ばたけば良いと思ってな」
男が三人と、ちょっと王女様感がある優とのチームなら、騎士と言う言葉はしっくりと来るはずだ…
「なるほど…確かに、今までので何か足りないと思ってたのはそれか…」
「え、ちょっと!私のネーミングセンスが悪いとでも言いたいの?」
「あぁ、悪い」
俺と尋は同時に言った。
「何も言わなかったのはあんた達じゃない!」
「ま、それも一理あるか」
こんな感じでいつも話し合いをしている。何かを決める際、多少言い合いにはなるが、みんな関心が薄いので、ほとんどがすぐに決まる。
「ねぇ、これからなんか行事あったっけ?」
智がふいにそう言ってきた。これから活動するに当たって、行事の事は知っておいた方が良さそうだしな…
「確か、五月に専攻科目のテストがある。」
尋が、オリエンテーションで配られた冊子を見ながら言う。
「それから、七月にグループ順位決定戦。
夏休み明け九月に、一・二年別のポイント上位によるライブ。
十月に専攻科目テスト。
十二月にグループ順位決定戦。
一月に一・二年上位三チーム決定戦。
三月に一・二年合同上位三チームによるライブ。くらいだな」
「結構あるのね。」
大体二ヶ月に一度、実力を試す場があるという事か…ポイントを稼ぐのは夏休みがメインになりそうだ。
やりたい事も、それに向けて何をするのかも、俺の中では大体決まってる。だが、これを全部言うと、三人が混乱する事は目に見えている。だから小出しにしていこう。
「七月の順位決定戦までは、尋の出番なしな」
「え!?本気?髪セットもメイクもしないって事?」
「そう言ったよ」
「明希…大丈夫なの?それ。たとえ公式アカウントだの、入試一位だの言っていたって、実力が無ければ人気でないよ?」
智は割と痛いところを突いてくる。小さい頃から一緒にいるからか、俺の考えている事が大体は理解できるみたいだが、今回ばかりは分からなかったようだ。
「ギャップだよ」
「どう言う事?」
「俺は七月までって言ったよな?」
「言った…」
尋は俺を見据えるように答えた。
「でもそれじゃあ、九月のライブは出来ないわよね?」
優はさっきから一つも理解できないように、質問攻めをしてくる。
「それで良いんだ。」
俺の答えに、優はキョトンとしたまま。
「あー、大体分かった」
智は理解が早かった
「つまりこうだろ?
最初全く良い成績を残せていないチームが、ある時突然現れる的な…」
「そう言う事だ。さすが智」
「何年一緒にいると思ってる」
「ま、そうだよな…」
「じゃあ、十二月のライブで結果を出して、名前売り出す作戦なのは分かった。でもそれまではどうするの?」
「それまでは、小さな活動をして、見てくれる人を見つける」
「あ…明希が、夏休み叔母さんのところ空いてるか聞いてきたのってそれか…」
智には頼んでいた事があった。そう、智の叔母さんは山の上で旅館を経営している。海が見える所だ。
それまで小さな活動をいくつかしていれば、お客さんは来るはずだ。それをきっかけにして、俺たちの名前を売り出す作戦
「急に有力なグループが現れるとか、効果あるの?」
「あるはずだ。十年前にもやってる人いたし、俺らならインパクト大!」
イケメンと美人が揃っているこのグループなら行ける。あ、俺は抜いといてくれ…
「ちなみに、先に優の顔だけは売り出しておく、男どもの方が引っかかりやすいからな」
「まぁ…女達なら後で現れたイケメンにも振り向いてくれるだろってやつか…
明希お前って、割とクズだよな」
「それで結構。俺はそうやって生きてきた」
俺は尋に自慢げな笑みを浮かべながら言った。
「本当に、やんなっちゃう。こんなやつと付き合ってたなんてね…」
優の言葉で、四人の中に変な空気が流れ、誰も何も言わない時間が流れた。
「うん。ん?別れたの?」
やっと、尋が言葉を発する
「まぁね…もう決めた事だから踏み込んでこないでよ?」
「分かってるよ」
その後もとんとん拍子で色々決めていった。宣材写真をどう撮るか、どこで撮るかなど…
「ロゴは私に任せてよ」
「出来るのか?」
「ちょっとやってみたくてね」
「出来るだけ早い方がいい」
「頑張ります」
優は少々自信があるようだったので、任せる事にした。
「じゃあ、もう夕方だしそろそろ帰るか。俺は姉貴の飯作んなきゃだし」
「そうだな。んじゃ、また明日学校で」
「またねー」
「バイバーイ」
と、優と尋に別れを告げ、智とそれぞれの家に向かう。
その道中
「明希は優ちゃんと別れたんだ。」
智が俺に聞いて来た。何気ない顔でさりげなく
「優に振られたんだよ」
「それで良かったの?また告白されたりするんじゃない?」
智が心配している理由が分からないわけではない。ただ、俺自身がこれで良かったと思ってる。
「チームの中に一人でも異性がいれば、誰かとできてると思うもんだろ。
尋はもちろん双子だからないと考えて、智と俺になるわけだ。しかも、今みんなが一番興味があるのは、一位であるこの俺。
それに…優が決めた事だ。俺には口出し出来ない」
「そっか…」
そんな会話だけして、俺達は黙って歩いていた。
俺の家の前に着くと、智は俺の服の袖を掴んでこう言った。
「明希…朝ごはん食べにきても良い?」
「ん?あぁ良いよ。何時にくる?」
「うーん。七時かな?」
「分かった。準備しておく」
「ありがとう。」
智は、自分の家が好きではない。その事を知っている俺は、いつも快く受け入れているんだ。俺としても、智が来るのは嫌ではない。むしろ好きな方だ。
「じゃあ明希、また明日ね!」
智は走りながら俺に手を振った。
「あぁ、また明日な!」
俺も手を振りながら、智に笑顔を見えせ見送った。
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