Another story ー精霊の記憶ー

EX 復讐心の覚醒ーヴィクトー(前編)

 時の流れ征く終着点。

 これは、世界が創造された直後の精霊たちの話である。

「——あとは、生命だな。」

 『秩序』の精霊、ディクリスが天から呼びかける。

 切り離された世界『神欧星』。

 それを支えたのは精霊だった。

 『秩序』の精霊、ディクリス。

 『終焉』の精霊、ラグナロク。

 『繁栄』の精霊、フロスェル。

 『破壊』の精霊、ヴィクト。

 『生命』の精霊、イグジステン。

 『惨殺』の精霊、スローテル。

 『希望』の精霊、フォープ。

 『虚飾』の精霊、アスティー。

 『記憶』の精霊、モリアメル。

 2253年前、世界の均衡を見守るよう託された9体の精霊。

 神々が託した希望とも言われていた。

 それぞれ、『否定』、『肯定』の因子を根幹としている。

 人形だが、精霊は精霊。

 それぞれの力を持っている。


 これは、『破壊』の精霊、ヴィクトが、セカンド・ユグドラシルを起こした動機に迫る。


 壊して戻して。

 人生の楽しみは破壊と再生。

 もっとも、壊すほうが得意だったが。

 これは、本編から380年前の話。

 

 大地が削られて行く。

 爆炎が大地を飲み込む。

 二つの強力な魔力が大気を巻き込む。

「お前…本当に人間か?」

 ヴィクトは相手の男を睨みながら言う。

「もちろんさ…まぁ、精霊と戦うのは初めてだがな!」

 相手の魔法杖から大爆発魔法が巻き起こる。

 颯爽とかわすヴィクト。

「そんなもの!」

 ヴィクトが極大破壊魔法を放つ。

 紫色の光線が男―七星・魁星を包み込む。

 木端微塵になって消滅した。

『バラバラ‥可哀そうに、彼も祝福して生まれてきたのに…』

 優しい、静かな女性の声。

「ー。プレィシンク…お前が何故いる…」

 白いドレス、金で結ばれたリボン。

「可哀そう…代償は大きいよ?」

 突如、優しいたれ目に殺意が宿る。

「お前…‥‥!」

 ヴィクトがいきなり吐血する。

 ただ、睨まれているだけなのに。

 寒気がして気持ち悪くてー。

「てめぇ‥」

「私もそんな惨いことはしない…ただー。」

 話している最中だ。

 プレィシンクが吹き飛ばされる。

「誰だ——!か…い…せい⁉」

 亡きはずの魁星。

「プレィシンク!」

 ヴィクトがプレィシンクを睨む。

「復活させやがったな!」

 ヴィクトがキレる。

 しかし、魔弾を撃ったのは魁星ではない。

 ヴィクトは、反射的に頭上を見上げる。

「誰だ?」

 逆光で何も見えない人物が降りてくる。

「リヴァス・テラー…さっ!」

 瞬時にヴィクトの首に針を刺す。

「イッ…何を―!」

 体の中が熱い。

 何かが燃えている。

「アガ・・・グハァ…ウァァァァァァァァァ!」

 ヴィクトが紫色に満ちる。

 黒い目が血で紅に染まる。

「俺が…俺は…『ジャネリア』…なんだ!」

 紅い目から流血が始まる。

 紫の髪が揺らめく。

「ーあなた…何をしたんです?」

 プレィシンクがリヴァスを睨む。

「ただ、『破壊』の精霊石を闇の術式で『悪意』に改造しただけだ。」

「ひゃ…精霊石の…改造⁉そんなこと‥許されると?」

 また殺意が宿る。

「フフフフ…『闇の結晶』に変わる…」

 腹部の中心で蠢く紫の石。

「貴方は…神々の力までをも…改造するのか?」

 優しいプレィシンクの口調が変わる。

「ー。」

「俺は…『悪意』だ…」

 ヴィクトがボヤくように言う。

 ニヤつくリヴァス。

 あんぐりと口を開ける魁星。

「ーなんか言えよ!オー…リヴァス!」

 睨むプレィシンク。

                  (後編へ)

 

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