9 在るべき未来
——この戦い、『ラグナロク』より酷い被害が出るかもしれない。
世界に魔獣が溢れ始める。
「可能性が全てじゃない…偶然だってあるだろ…」
翡翠・永祁が、魔獣を槍で突き割いて行く。
「この戦いの勝負は決している。故に、俺は戦う!」
バルドルが、レーヴァテインを振るいながら啖呵を切る。
「どんな道を歩もうが、あなた達の望む運命には至らない!」
魔弾を飛び交わせるヴァミリアが言う。
「ー進め。それが俺に課せられた試練だ!」
この剣に掛けられた願いが、思いが、どれほどのものかを見せつける。
町が燃えて行く。
魔獣はどんどんと増えて行く。
「手に追えねぇじゃねぇですか…」
翡翠が躊躇う。
減らしても倍になって増える。
「それだけ、奴の魔力が強いということだ…」
未だ動かないヴィクト。
「おいおい‥」
数々の悲鳴の後、ヴィクティリア領が爆発する。
「何が起こってやがる…」
「ヴァイオレアがこの反乱に紛れて暴れています!」
傭兵の男が叫んだ。
「——こうなったら…」
大空が光り輝いた。
遂にヴィクトが行動に出たのだ。
「——。」
ヴィクトは二つの黒い剣を持っている。
「俺は力を手に入れた…精霊の力が覚醒した。」
ヴィクトが紅い眼を光らせながら黒い剣を振るう。
「ツイン・B・ローズ…それこそが、俺の剣。」
謎の紹介の後、先制攻撃に出た。
バルドルがどうにか持ちこたえるが、長くはもちそうにない。
「お前らが、どうしようと!未来は、変えさせない!」
二つの剣を乱雑に振るいながら、妄言を吐く。
「どうしたって、未来は変わる!信じる限りな!」
——変わるんじゃない、変えるんだ。
「——おのれ、貴様らがどう足掻こうが未来がどうなる!」
植物が、バルドルを飲み込もうとするが、魔弾により、茎を折られる。
「こうなったら——。」
ヴィクトが剣を捨て、魔法陣を繰り出す。
「全て、終われ!」
魔法陣から、紫色の太いビームが放たれる。
一直線に伸びたビーム砲は、街を飲み込み、全てを食らい壊して行く。
「これが、最後だ。お前らの見る最後の景色!」
ヴィクトの顔は狂気で歪んでいた。
この世の終焉を夢見た報復だ。
魔法陣は消え、バルドルが首に斬りかかる。
「覚悟!」
ここで、バルドルが決まれば勝利だがー。
首を斬った。
ヴィクトの胴体と首が切り離される。
首は地面に落ち、動かなくなった。
胴体も、骨が無くなったかのように崩れ落ちた。
胴体の斬り口から、紫色の液体が放出される。
紫の液体は煙を取り巻くかのように何かの形を作っていく。
「これは‥」
まるで鳥のような形になり、一番大きな植物の天辺にとまった。
「―…グリンカムビ…ユグドラシルに鎮座する鳥、ラグナロクの警告をする鳥…」
ヴァミリアが途切れ途切れに語った。
「でも、これは、自分自身を貶めることになるぞ…」
バルドルが天を見ながら言う。
「そもそも、グリンカムビは英雄を目覚めさせる鳥、つまりー。」
紫の空に、金色の丸い空間が作られる。
そこから現れたのは——。
「ライナ様とリアラ様…」
英雄が目覚めたのだ。
二人は金色の鎖で、グリンカムビを縛り付けた。
『ここからはあんた達の仕事よ。』
『バルドル、全てを終わらせなさい。』
二人の言葉に、バルドルは頷き、レーヴァテインを握る。
その時だった。
縛っていた鎖を壊し、急降下してくる。
その標的はー。
「ゼルネ!」
ヴァミリアは少女の所へ向かうが間に合わない。
一番近くにいるのは―。
「俺だ!」
ゼルネを庇うように、ヘクセレイが覆いかぶさる。
グリンカムビはヘクセレイの腹を貫き、煙の姿となる。
「にぃちゃん!」
大量の血が、ゼルネに降りかかる。
煙になって空へ舞い戻った鳥は、攻撃態勢になる。
「ヴィゾーヴニル…」
名前が変わったその鳥のクチバシに魔法陣が作られる。
「なんでそんなにゼルネを!」
限界だった。
結界を作ろうとしたヴァミリアの魔杖は折れ、ヴァミリア自身がビームを受ける。
ヴァミリアは光に飲まれ、跡形も無く消えた。
「なんでこんなことにあるんだです…」
翡翠が槍を握りしめる。
「この世界を…どれだけ憎んでんだよ…」
バルドルがヴィゾーヴニルを睨む。
「!」
また、こちらに急降下してくる。
「俺らが、学習しない訳ないだろ!」
向かってきたヴィゾーヴニルの腹に、レーヴァテインが貫通する。
紫の煙は空に舞い上がるが、先程より力ない。
その煙は樹の上で、ヴィクトその人の姿を形作った。
紫に染まるヴィクトの形をした塊。
「憎い…世界が、あの大火で死ななかった者が…魔力を持った者が…」
「自分だって持ってるだろです。」
翡翠が反論する。
「この程度の魔力で何ができる!」
(いや、これだけ被害だしただろ。)
炎に包まれる街を見て、バルドルは思う。
「俺は、英雄になりたかった…皆から信用されるな‥俺には、何が足りなかったんだ!」
心の底からの訴えだ。
「——お前には、表現方法が雑すぎたってところか…」
バルドルは紫の塊を見ながら続ける。
「お前の未来を変えないという考え、間違っているわけではない。世界には、色々な考えの人がいる。」
翡翠は頷きながら自分の槍をさする。
「その考えを人にも押しつけるのは、強引だ。」
紫のヴィクトの目から涙が流れた気がした。
「互いを認め合い、共生することが大切だ。お前はそのやり方を間違えた…というか、間違えさせられた‥」
「まさか…リヴァスは…俺を騙していたのか…」
「お前の考えを悪用してな…」
リヴァスはヴィクトの心の弱みを突いたのだ。
「それは…騙されて‥信じて…世界を‥」
「混乱させた。それだけだ…」
樹の上で、紫のヴィクトが崩れ落ちる。
「本来、復讐すべき相手はアイツだったのか…」
植物が枯れて行く。
「ヴィクトは死んだ…お前も長くはないだろ。ヴィクトの精神体…」
一番大きな樹、ユグドラシルも枯れて、地面に取り残される精神体。
「肉体も精神も死ねば俺も終わりか…」
「悪しき心に騙された哀れな男め…」
ヴィクトの首を持ち上げて言う。
「また、ヴァルハラで。」
静かに追悼し、消え行く精神体を見る。
「あぁ、必ず。」
紫の体は風に溶けて消えた。
空は、いつもの蒼に戻っていた。
「——本来あるべき姿…か。」
バルドルは草原の石に腰掛けて永祁と喋つていた。
「そんなの本当にあるのかですかね…」
変な喋り方を無視して街を見る。
「もう復旧が始まったのか…活力があるな。」
バルドルは優しい春季の風に伸びをする。
「いずれ来る『セカンド・ラグナロク』か…」
「やっと前哨戦が終わったってところですかね…」
いま、ちゃんと喋れた⁉
と、バルドルは思ったが口にはしなかった。
「そういえば…大火って何だったんだろうな…」
街道を歩く一人の少女を見て言う。
「ヘクセレイは、記憶が消える。少女は誘拐される。俺は親を殺される。お前は?」
バルドルは永祁に質問する。
「大火ですかですね‥そうだ、弟が…」
「そうか。」
皆、大火に何らの因縁がある。
もちろん、ヴァイオレア、リヴァスにもー。
「あの…」
街道を歩いていた少女が目の前にいた
「ウワッ!…と、すまない。どうかしたか?」
バルドルは動揺を隠すかのように早口になる。
後ろからヤイヤイと永祁が囃し立てる。
「大火について…なにか知っているんですか?」
黒を強調するデザインの服。
魔力保持者。
何故か不思議な力を感じる。
「名前は…?」
不思議な少女の——。
「名前は―。」
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