7 ヨルムンガンド決着戦 / 在るべき姿

 二人の援軍が到着した。

 それを見守るしかないのだが——。

 魔弾が装甲に当たり、亀裂を入れて。

 槍が、装甲を破るかのように掻っ捌く。

 謎の紅い髪の魔女、ヴァミリア。

 槍の名門、翡翠家の末裔、翡翠・永祁。

 この二人により、ヨルムンガンドの体力も消耗している。

 飛べなくなった。

 ヴァミリアの魔弾のおかげで両翼が落ちた。

 飛べないなら、勝負はこちらのものだろう。

 ——まず、彼女らが味方かもわかってないが。

 ヨルムンガンドの装甲が剥がれる。

「これで、最後だ!」

 銀色の糸をー。槍がコアの糸を貫く。

 ヨルムンガンドの固い装甲に紫の亀裂が入り、粉々に砕け散る。

「おい、大丈夫ですか?」

 翡翠がこちらへやってくる。

「あ…あぁ。」

 背の傷が未だに痛む。

「さて、あなたの身柄はこっちで引き取るから。」

 ヴァミリアが、紙を見せる。

「手配書?」

 そういえば、捜索願が出されていたのだ。

「そういえば、翡翠さんはなぜ、助けに?」

「助けたかったわけじゃねぇんです。ただ、復讐がしたかっただけなんだです。」

 何だろうこの人、敬語と暴言混じってるぞおい…

「復讐?ヨルムンガンドに?」

「違げぇです。ローブの男だです。」

 ホント、この人と喋るのなんか疲れる。

「ローブ…あぁ、左目の無いあやとりのあの狂老か…」

 闇の術式を用いて戦い、ヨルムンガンド残してトンズラした爺さん。

「誰だったんですあれ。」

 迷惑なお爺さんだとは思ったが―。

「あんた知らないの?」

 ヴァミリアから変な視線を向けられる。

「あいつは、反魔力保持者…俗に言うヴァイオレアの総統、リヴァス・テラー。」

「ヴァイオレアの…総統⁉」

 やはり、反魔力保持者にはリーダーがいたのだ。

「取り逃がしたのはまずかったんじゃ…」

 ホントに、いろんな意味で手配されそうだ。

「そういえば、皆さんはどうやってここに…」

 ここは、浮遊した大陸のはずだ。

 よって、人が登ってくることは不可能に近い。

「——。瞬間移動的なやつ…です。」

 翡翠が頼りなく言った。

「残念だけど、治癒術師はいないの。さっさと立って、行くよ。」

 随分、辛辣な人だなと思いながら、後をついていく。

「さ、早く私の手を掴んで。」

 よくよく思えば、魔女ではないので、ヘクセレイは下りることが出来ない。

「じゃぁ…翡翠さんはどうやって?」

 あの人も、魔術師や魔女ではないはず。

「飛んできたんだです。」

 あのジャンプはそう言うことか。

「あぁ、へぇ。」

 唐突に引いたわ。

「あなたに、捜索願を出した人の元へ。」

 瞬間移動とは、実に便利だな。

 ヴィクティリア領からのはず‥

 

 瞬間移動の先は白い家だった。

「え…ジュアじゃねぇのかよ…」

 だとすれば、身に覚えがない。

「行ってきなさい。」

「ヴァミリアさんは入らないんですか?」

 この人の同行の下ではではないのだろうか…

「私は、外で待ってるから。」

 どういう決まりなのか、よく分からないが、白い扉をノックする。

「やっと、ついたんですね。」

 扉の奥から、静かに女性の声がした。

 扉がゆっくりと開き、顔の整った、綺麗な女性が現れる。

「あなたは…」

 見たことのない女性だが——。

「私は、クラミア・ソール。」

 名も聞いた事がない。

「クラミア…さん?」

 初対面なので、どう接していいか分からない。

「あなたは…私のことを覚えていませんよね…」

 知らない。

 初対面。

 こんな女性とは会った事が無い。

 それも、30代の年が離れた女性とは―。

「あなたは一度、忘却魔法にかけられているのですから…」

 突然不思議なことを言いだした。

「そんな魔法…受けた覚え‥」

 そういえば、前から思っていたことがある。

「7歳の時の記憶がないんですよね…」

 どうやっても、7歳の記憶が思い出せない。

 断片的にならかろうじで残ってるが…

 消えゆく記憶。

 薄れる過去。

 思いだせずに、記憶が閉ざされた。

「覚えている記憶を、話してみて。」

 クラミアは優しく述べた。

「えっと…燃える記憶…様々な色の炎、堕ちる彗星…泣く少女…」

 それが、断片的な記憶の全てだった。

「えぇ、そうね。合っているわ。」

 この人は、僕の過去を知っているのだろうか。

「あの記憶は何なんですか…」

 気分が悪くなるような記憶の正体。

「あれは、『伝説の大火』…」

 初めて聞いた。

「あなた7歳の頃、この大陸全土を包み込んだ大火事。」

 断片的な記憶に繋がりが見えてくる。

「でも…なぜ、その記憶が消されたんです?」

 ただの火事で、こうして生きているなら記憶だってあるはずだ。

「言ったでしょう…忘却魔法、それをあなたはかけられたの。」

「誰に?」

「炎を放ったーヴァイオレア・アニマス連合軍に。」

 ヴァイオレア、反魔力保持者と、アニマスとは何だろうか。

 考えている内にリアラの言葉が蘇る。

『敵対心の塊みたいな組織。』

 それこそが、アニマスの正体。

「ヴァイオレアのリーダー、リヴァス・テラー。アニマスの総指揮官、ヴィクト・マリシャス。そして、その右腕、七星・魁星ななほし かいせい。」

 クラミアは淡々と事の中枢を語る。

 リヴァス以外は聞いた事がない。

 ましてや、アニマスなど何なのかも分からない。

「あなたが今、向かうべき所はヴァミリアに伝えてある。征きなさい。」

 クラミアの指示で、外に出る。

「頼みました。ヴァミリア。」

「はい。」

 それだけ言って、クラミアは家の扉を閉めた。

 『伝説の大火』

「——調べてみる必要があるな。」

 

 ——前哨戦は終わった。


 殺意と渾沌の入り混じる。

 それがアニマスの目標。

 在るべき姿。


 暗い部屋の片隅で、紅蓮と漆黒の服を着た男がいる。

 その隣には、同様の服を着た若い男もいる。

「動いたんだな。ルナ・ヘクセレイ。」

 椅子に座る男が言った。

「えぇ、リヴァス様から伝言が入りましたから。」

 若い男が答える。

「俺がつかみ取るものは、在るべき姿だ。」

 男——ヴィクトの目の前には大きな鏡がある。

 そこに移るもの——。

「未来を、セカンド・ラグナロクを変えてはならない!」

 鏡に向かい、そう叫んだのだ。 





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