3 無数の氷弾

 アルカナスト領 アスフィルガルム


 ガクナ説得後、更に北へと進んでいく。

 冷えてきたな。

 いくら巨大なこの大陸の東側でも、北へ進めば寒いことに変わりはない。


 吹く風が冷たい。

 そこまで来たでは無い為か、雪は降っていない。

「そこの者」

 何者かに呼び止められ、ヘクセレイは後ろを振り向く。

 若い。

 腰に二つの剣がある。

 そのまま話しかければいいのだが、その剣から目が離せなかった。

 鞘や剣に刻まれる、歯車のような刻印。

「その刻印は…」

 つい、思ったことが口に出てしまう。

「どうかしたか」

 若人は首を振り、続ける。

「何故、ここに来た」

 不自然な質問だ。

「来ては駄目なのか?都合の悪いことでも?」

 若人はため息をついて、剣に手をかける。

「お前は、ここがどんな地区なのか分かっているのか?」

 忠告めいた発言を受け、動揺する。

「激戦区。それだけのことだろ」

 ヘクセレイの言葉に、若人が激昂する。

「そんな生半可な気持ちでここに来るな!」

 若人はついに剣を鞘から抜いた。

 いきなりのことで、動揺する。

「何のつもりだ。ここであんたと戦う気はない」

「気がなくても、俺に勝てなければここから先には進めん」

 謎の殺意が若人の目に浮かび上がる。

「そちらがその気ならしょうがないな」

 ガクナとの乱闘で相当のスタミナを消耗している。

 若人が先攻を取る。

 歯車印の剣を横に振るが、その場にヘクセレイはいない。

「なっ!」

 相手は驚いているようだが、大したことは無い。

「これでっ!」

 若人は回し切りをする。

 若人の周りに剣のバリアができ、近づけない。

 しかし、回している奴も攻撃できないはずだ。

 どうやら回し疲れたらしい。

 若人は息が上がる。

「おいおい‥もう終わりか?」

 見下すように言って見せる。

「んだとぉ⁉」

 相手を怒らせる。

 人間、怒るだけで疲れがたまるものだ。

 相手がもう一つの剣を抜く。

 相手は二刀流になる。

「剣が増えたところで、お前の根幹の力は変わらないだろ?」

「っるせぇー!」

 二本の剣をバツ字に刻んで行く。

 波動が若人から放たれる。

「覚醒か…」

 武器自体と共鳴し覚醒する。

「さぁ、ビビったか!」

 この人、なんて情けないのか。

「まで俺は剣も抜いてねぇよ」

 その言葉を言った直後だった。

 若人の剣が、右の腹部を掠める。

「グ…」

 赤い液体が血に垂れ落つ。

「隙があったな」

 ヘクセレイの腰で、カチッという音がする。

「リミッター解除!」

 総量15㎏もある長剣、セレーネ・エスパーダを抜く。

「ー。」

 あまり使いたくはないが。

「クリネス・ポルタント・アイス・ヴレット!」

 若人が叫ぶと同時に、奴の頭上に無数の氷弾が現れる。

「そんもの…」

 無数の氷弾が向かってくるが、全て剣で斬り裂く。

「お前は…」

 若人が動揺する。

「お前の隙だ!」

 剣で相手の腰を横から討つ。

 切り裂いたわけではない。

 しっかり、鞘に収まっている。

 重たい鞘で打ったのだ。

 若人は気絶しそうだ。

「お前…は…このぉ…」

 打ち勝った。

 しかし、この歯車の刻印。

「俺の勝ちだな」

 悠々と勝利の宣言をしてみせる。

「さて、ゆっくり話をしようか」

 横たわる若人の目を睨む。

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