第46話:聖女対決7
「この程度のワイバーンでは美味くもなければ魔力の足しにもならんな。
こんな時でなければお前達の食材にしてやったのだが、まあ諦めろ」
モイラとの絆が切れて、ようやく自由になれたと思ったワイバーンが、急いでチビちゃんの縄張りの周囲から逃げようとしたのだが、逃げられなかった。
逃がすと人間が喰われるかもしれない。
人間が喰われたのを後でソフィアが知るととても哀しむ。
ソフィアの哀しみの感情を受けるのはチビちゃんにも苦痛だった。
だからそれほど食べたくもないワイバーンを喰ったのだ。
一方そう言われたグレアムは正直困っていた。
ワイバーンを、それも四強と呼ばれた聖女候補の従魔だったワイバーンを、食べていいと言われてもはいそうですかと食べられるモノではない。
確かにワイバーンなんて超高級食材を食べたい気持ちはある。
領地の民はワイバーンを食べていいと渡されたら涙を流して喜ぶだろう。
だがグレアムはかなり複雑な心境になっていただろう。
正直チビちゃんが喰ってくれて安堵していた。
「じゃあそろそろ全部終わらせるか」
チビちゃんが言い放った。
グレアムにはチビちゃんの言った意味が理解できた。
ソフィアはぐっすりと眠っている。
今なら何をしても大丈夫だった。
「そうだな、もう全てを終わらせる時だな」
グレアムは家族を殺す決断をした。
家族が王都を放棄して逃げ出したと知った時から、殺さなければいけないと思っていたし、殺さなければソフィアの邪魔になると分かっていた。
何より建国王と建国聖女に申し訳ないと思っていた。
腐りきった王家に引導を渡すのは、王族の血が流れる自分の役目だと思っていた。
決断すれば後は簡単な事だった。
こちらには伝説の龍チビちゃんがいるのだ。
だが副都にはソフィアの妹ナタリアがいた。
三強が副都に逃げていた事からナタリアが副都に逃げている事も予想できていた。
半分しか血は繋がっていないが、間違いなくソフィアの妹だ。
グレアムはチビちゃんが妹を殺して喰う所をソフィアに見せたくなかったのだ。
スフィンクスが早々に抵抗をあきらめて逃げようとしたが、チビちゃんがソフィアを虐めたナタリアを逃がすはずがない。
チビちゃんも一飲みにして食道や内臓でスフィンクスが暴れるのは嫌だったのだろう、頭を喰い千切って絶命させてから飲み込んでいた。
再び民を見捨てて逃げる準備をしていた父王ジェイムズは、チビちゃんに離宮の建材ごと一飲みにされた。
グレアムは沢山いる妾から生まれたから王妃とは血が繋がっていない。
それでも父の正室であり元聖女であるメアリー王妃が、民を捨てて逃げようとしているのは許せなかった。
怒りに任せて罵りたかったが、チビちゃんはそんなグレアムの気持ちなどお構いなしで、ワイバーンの頭を喰い千切って絶命させてから一緒に飲み込んでしまった。
「じゃあソフィアが寝ているうちに帰るとするか」
「おお、任せろ、それより今日も魔境に喰いに行かせろ」
「威圧はなしだぞ、食材は大切にしろ」
「へい、へい」
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