第44話:副都にて

 魔境から一番離れた王家の副都、離宮は最悪の雰囲気だった。

 税の徴収に行かせたグリフォンの聖女キャスリーンとペガサスの聖女アレグザンドラが何時まで経っても戻ってこない。

 地位や名誉に拘っていた二人が逃げ出すとは思えない。

 塩田村に何かとてつもない魔獣や魔蟲がいる可能性があった。

 その事が王都から逃げてきた者達に大きな恐怖を与えていた。

 

「陛下、ここはワイバーンの聖女モイラに偵察に行ってもらいましょう。

 ワイバーンは従魔の中でも最強の戦闘力を誇っています。

 彼女達ならどのような敵が待ち構えていようと薙ぎ払って税を徴収してくれます。

 グリフォンの聖女とペガサスの聖女ができなかった事でも、彼女達なら大丈夫。

 必ず成し遂げて無事に帰って来てくれます」


 同じワイバーンを従魔に持つ元聖女のメアリー王妃がモイラを持ち上げる。

 怖気づいて役目を拒否されたり逃げ出したりされては困るのだ。

 メアリー王妃は成り上がりの四聖女よりもずっと人生経験が長い。

 特に王宮での駆け引きでは色々と学ぶことがあった。

 最終的にはワイバーンの力で解決したが、何度も罠に嵌められて窮地に陥った経験があり、モイラを逃げられないように追い込むくらい簡単だった。


「そうだな、二人の聖女が失敗するような大役はモイラ以外には任せられないな。

 だとしたら無事に役目を果たした時には褒美を与えなばなるまい」


 ジェイムズ国王とメアリー王妃は共謀していた。

 事前に話し合ってモイラが断れないようにしていた。

 煽てて褒めて褒美を鼻先にぶら下げる策を使っていた。

 モイラが何よりも欲しい褒美をだ。


「はい、この役目が成功した暁には、モイラを女男爵から女子爵に陞爵しましょう。

 その後で徴税の責任者に任命して、多くの領地から徴税してきてもらうのです。

 以前と同じだけの税が集められたとしたら、その功には誰も及ばないでしょう。

 その時には女子爵から女伯爵の陞爵してもいいのではありませんか、陛下」


「そうだな、まずは今回の塩田村の徴税を成功させて女子爵になることだが。

 もし本当に去年と同じだけの税を集められたら、女伯爵にしても誰も文句は言うまい、なあ、スフィンクスの聖女ナタリア女公爵」


「……はい、もし本当にそんな事ができたとしたら、素晴らしい功績です。

 私も女子爵や女伯爵に陞爵すべきだと思います」


 ナタリアは内心とても苛立っていた。

 正面からの力比べではワイバーンにわずかに劣るが、戦い方次第ではスフィンクスの方がワイバーンよりも強いと思っていた。

 だがそれをワイバーンを従魔にするメアリー王妃に面と向かっては言えない。

 同時にジェイムズ国王とメアリー王妃の謀略にも気がついていた。


 モイラとワイバーンが生きて戻らないようなら、ワイバーンでも勝てない魔獣か魔蟲が副都にも迫っているのだ。

 急いで持ち出せるだけの財宝を持って他国に亡命しなければいけない。

 モイラはそれを図るための捨て石に選ばれたという事を理解していた。

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