第43話:安眠

 ソフィアは心から安心して深く眠っていた。

 安堵の表情を浮かべて昏々と眠っていた。

 長年溜まった心身の疲れを深い睡眠で癒していた。

 前回の昏睡魔術でも癒されたが、今回の眠りは特別だった

 苦手な事はグレアムとチビちゃんに任せた方がいいと思えたことで、ようやく多くの苦しみから解放されたのだ。


 人には持って生まれた才能もあれば向き不向きの性格もある。

 ソフィアには厳しい決断を迫られる領主という役目は向いていないのだ。

 聖女と言う役目も厳しい決断をしなければいけない時がある。

 それはソフィアには大きな負担だった。

 だがその決断すらグレアムに任せる事を自分に許した。

 従魔であるチビちゃんが認めてくれたことで、聖女であっても逃げていいのだと思えた事が、ソフィアを聖女の呪縛からも解き放ってくれたのだ。


「シンシア様、塩田村の民からいい話を聞いてきました。

 塩で固めた状態で焼いた肉は保存期間短いですが、塩の結晶で完全に包んでしまう事ができてなら、数年は保存が可能だという話です」


「そうなの、それが本当ならば助かりますが、実際に自分達でやった事のない事を、話だけで鵜呑みにする事はできません。

 今後の事もありますから、試してはみますがそれに頼り切るわけにはいきません。

 まあ、今は腐らせるほどの魔獣と魔蟲がありますから全部塩に漬けてしまいます。

 その為の壺を焼かせいますし桶も作らえています」


 三連星活動期だというのに、この領地では信じられないほど大量の食料があった。

 全部魔獣と魔蟲だが、今は食べられるだけでも幸福なのだ。

 それがこの領地では、美味しくなかったり食べ難かったりする魔獣や魔蟲は、食べずに何時食べることになるかもわからない塩漬けにされる。

 領民が食べる魔獣や魔蟲は普段なら王侯貴族でも滅多に食べられない最高級品だ。


 全ての領民が苦しくなるくらい最高級品の魔獣や魔蟲を食べた。

 食べても食べてもなくならず、翌日食べるための塩漬けにされる。

 何時食べることになるのかもわからない長期保存の為の塩漬けではなく、翌日や数日後や一週間後に、今より美味しく食べるための香草を混ぜた適度な塩漬けだ。

 ウインナー、ハムに加工された最高級品の魔獣や魔蟲は、舌が蕩けそうになるくらい美味しく、人生最高の大御馳走だった。


 全ての領民が満面の笑みを浮かべて魔獣や魔蟲を加工していた。

 塩漬けして乾燥して燻製する。

 加工肉を冷暗所に運んで保存する。

 一連の作業がとても楽しい仕事だった。

 長期保存が可能な穀物は一切食べずに冷暗所で保存する。

 塩漬けすれば数十年の保存が可能な熟す前の果実も塩漬けにしている。

 ナッツと呼ばれる種子もできるだけ集めて塩漬けしていた。

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