第41話:聖女対決4

「ホオォッウホホホホ、笑わせてくれるわね。

 そんな不格好な従魔が私に勝てるわけがないでしょ」


 アレグザンドラはソフィアとグレアムを挑発しながら逃げる準備もしていた。

 今の会話でキャスリーンが殺されたか捕らえられたかだと判断したのだ。

 グリフォンはペガサスよりも強い。

 正面から不格好なトカゲと戦っても勝てない。

 だからペガサスの快足を生かして逃げる心算だったのだ。

 だがグレアムは勝負よりも重要な事があった。


「ソフィア、今日も目を瞑っていなさい。

 戦いや汚れ仕事は俺がやるからソフィアは聖女の仕事に専念するんだ。

 魔獣を斃して民を救う事に専念するんだ。

 いや、魔獣を斃すのはチビちゃんに任せればいい」


 グレアムが一番大切にしているのはソフィアだ。

 今はソフィアの心に負担をかけない事が一番大切なのだ。

 相手が民を虐げる堕聖女であろうと、チビちゃんが人を喰う所を見せてしまうのは、ソフィアの心に大きな負担をかけてしまう。

 だからまた昏倒魔術をかけようとしていた。


「そうだぞ、ソフィア。

 魔獣なんて俺様にとっては餌でしかない。

 ソフィアは俺の背中で寝ていればいい」


 チビちゃんもグレアムの考えに賛成だった。

 愛おしい主人ソフィアの心がズタズタになる感情を共有するのは絶対に嫌だった。

 だからソフィアが寝ている間はグレアムの指示に従ってやる心算でした。


「だから安心して眠りなさいソフィア」


 グレアムとチビちゃんに勧められてソフィアは安心して眠った。

 ソフィアもバカではない、いや、むしろ聡い方だ。

 傷つきやすく感受性が強い分だけ聡いのだ。

 だから自分が眠った後でアレグザンドラが喰われる事は分かっていた。

 分かっていて、民の為にも自分のためにも眠る方がいいと悟っていた。


「じゃあ、いただきます」


 一瞬の出来事だった。

 目にも止まらぬ早さで、アレグザンドラもペガサスも反応できなかった。

 ペガサスごときではチビちゃんの内臓壁すら傷ひとつ付けられない。

 だから事前に首から上を噛み砕いて殺しておく必要などない。

 丸呑みにできる大きさになってひと飲みにした。


 地上で見ていた塩田村の民にはチビちゃんが巨大化したのは分かったが、アレグザンドラとペガサスが飲み込まれたのは分からなかった。

 だがアレグザンドラとペガサスが消えたのは分かった。

 自分達がまた助けられたのは分かった。


「みな安心するがいい。

 人々を虐げようとした堕聖女と魔獣は真聖女様が斃してくださった。

 その代わりという訳ではないが、真聖女様のために働いてもらいたい。

 分け与えた魔獣や魔蟲の素材を使って武器と防具を作ってくれ。

 それを装備して王家の兵士が来たら追い返してくれ」


「「「「「オオオオオオオ」」」」」


 塩田村周辺の民は王家の民から真聖女ソフィアの民となった。

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