第40話:聖女対決3

 ソフィアをバカにする言葉を吐いているのはアレグザンドラだった。

 ペイズリー公爵家出身のペガサスの聖女だ。

 いや、公爵家の大半が死に絶えた今、従魔を持つ貴重な戦力として、女公爵として遇されてこの世の春を味わっていた。


 だがそんな女公爵も、いや、女公爵だからこそ王命には逆らえない。

 塩田村から税を徴発に行ったのに、いつまで待っても帰ってこないグリフォンの聖女キャスリーンの安否を確かめる事。

 場合によったら塩田村から税を徴発する事。

 本当ならそんな雑用などやりたくないアレグザンドラだったが、やらなければ自分の食糧も俸給も手に入らない。


 ハミルトン王国領は魔境に近い場所から八割が魔獣や魔蟲に襲われ壊滅した。

 つまり八割の領主が税を手に入れられなくなっている。

 領地や王都屋敷にあった備蓄も失われている。

 王家から報酬を得られなければ、女公爵と言っても無一文になってしまうのだ。

 だから使いっ走りのような役目でも引き受けなければいけない。


「アレグザンドラ嬢、何をしに来たのかな。

 まさかキャスリーン嬢のように民から略奪しに来たのかな。

 それではとても聖女候補だなんて偉そうな事は言えないよ。

 そんな腐れ外道は堕聖女としか言えないぞ」


「黙りなさい、下郎。

 誰かと思えば元王子で元勇者候補のグレアムじゃない。

 もうお前は王子でも勇者候補でもないの、単なる平民の下郎なの。

 それに比べて私はペイズリー公爵家を継いだ女公爵なのよ。

 頭が高いわ、這い蹲って礼を取りなさい」


 アレグザンドラは全く気がついていなかった。

 グレアムがアレグザンドラを怒らそうとわざと挑発している事を。

 ソフィアとの仁徳の差を民に見せつけようとしている事を。

 民の王家や他の聖女に対する反感と怒りを掻き立てようとしている事を。

 全く気がつかずにグレアムに踊らされていた。


「やはり三連星活動期で苦しむ民から全てを奪おうとしてきたのだな。

 そのような堕聖女の好き勝手にはさせない。

 我らには真聖女のソフィア様がおられるのだ。

 お前のごとき弱いペガサスしか従魔にできない堕聖女など恐れる必要もない」


「「「「「うおおおおおおお」」」」」


 見聞きしていた民から一斉に歓喜の叫びが起こった。

 自分達から全てを奪おうとやって来た悪人が面罵されたのだ。

 しかも相手は何時もやってくる最下級の兵士ではない。

 聖女で女公爵だと名乗っているのだ。

 これほど痛快な事はなかった。


 だがアレグザンドラはキャスリーンほどはバカではなかった。

 キャスリーンが戻ってこない事から、ソフィアの従魔が強い事は予測していた。

 だが蛇の身体に小さな四肢しかない不格好な姿から誤解していた。

 空を翔けるのは遅いと思い込んでいた。

 いや、魔獣の中でも翔けるのが早いペガサスを従馬にしている事、過去にあった他の従魔との翔け比べが過信につながっていた。

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