第37話:収集

「俺様は喰いごたえのある奴を斃してくる。

 お前らはその辺に死んでいる雑魚を集めておけ」


 チビちゃんはそう言い捨てると直ぐにいなくなってしまった。

 最初から恐怖で固まっていた元貧民に返事などできない。

 いや、グレアム配下の傭兵達も返事などできない。

 チビちゃんは一度に二万近い民を運べる大きさに巨大化したのだ。

 マーキングの時に大きくなったチビちゃんや、地竜を喰った時の大きなチビちゃんを知っていても、今の超巨大なチビちゃんを見たら腰を抜かすしかない。


「気をっつけぇえええええ!

 足元に落ちている魔獣や魔蟲を拾って袋に詰めろ」


 グレアムが傭兵と民に気合を入れるべく大声を出した。

 グレアムは全く動じていなかった。

 チビちゃんが伝説に龍だと分かった時から、何があっても驚かないと覚悟していたし、それができるだけの胆力がグレアムにはあったのだ。

 グレアムの言葉を聞いた者達が、ノロノロと足元で死んでいる魔獣や魔蟲の遺骸を拾い集めだした。


「袋が一杯になったら火を熾せ。

 魔獣や魔蟲を焼いて食ってもいいぞ。

 ただし火事にならないように注意しろよ」


「「「「「オオオオオ」」」」」


「ただし急いで用意しろよ。

 チビちゃんが戻ってきたら食べてる途中でも帰るからな」


 元貧民が一斉に反応した。

 移民した事で最低限の食事が得られるようになり、餓死する心配はなくなった。

 だがあくまでも最低限の食事だから、美味しい食事などではないし、量もとてもお腹一杯になるほどではなかった。

 そんな元貧民にとって、魔獣や魔蟲は大御馳走だった。


 大きな草袋一杯に魔獣と魔蟲を集めるのは簡単だった。

 足元に沢山の魔蟲が落ちているから拾い放題だったのだ。

 直ぐに草袋一杯の魔蟲を集めた元貧民達は急いで火を熾した。

 そして食べ応えのありそうな少し大きな魔蟲や、木の枝に刺して焼いて食べれそうな大きさの魔獣を焚火で焼き始めた。


 人よりも大きな魔獣や魔蟲も転がっていた。

 とても高価で美味しい魔獣や魔蟲だった。

 だがそんな魔獣や魔蟲を焼くには時間がかかってしまう。

 チビちゃんが戻ってきたら食事を放り出して戻らなければいけない。

 チビちゃんを待たせる事など考えられない。

 チビちゃんを怒らせたら人生が終わる、誰にだって分かる事だ。


「巨大な魔獣は人数を集めてここまで運んで来い」


 全員が急いでお腹一杯食べた。

 苦しいくらいお腹一杯食べた。

 魔獣や魔蟲という御馳走をお腹一杯食べることができた。

 だが美味しいモノをお腹一杯食べることができた幸福感に浸る事はできなかった。

 グレアムに命じられて大きな魔獣や魔蟲を集めなければいけなかった。

 手早く食材と素材を集めるのではなく、価値のある食材と素材を集めたのだ。

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