第38話:驚愕

「これがチビちゃんの言う、魔力の足しにもならない食べ応えのない雑魚ですか。

 信じられない、いえ、信じたくない現実ですね」


 シンシアはため息がつきたいのを必死でこらえていた。

 眼の前に転がっている魔獣や魔蟲が信じられなかった。

 その中には聖女が得られる従魔の中でも強力だと考えられている、グリフォンやマンティコア、ミノタウロスやヒュージスパイダーまでいるのだ。


「チビちゃんの話では、おなじグリフォンやマンティコアでも個体によって強さが大きく違うようで、今回の威圧で死ぬような魔獣や魔蟲は食べる価値がないそうです」


 グレアムが呆れた声と表情でシンシアの言葉に答えた。

 シンシアが内心どう考えているかが手に取るように分かっていた。

 グレアム自身も同じ事を考えていたからだ。


「それで、そのチビちゃんはどこにいるのですか」


「お腹が一杯過ぎて小さくなれないので城内に入れないそうです。

 中庭で大いびきをかいて寝ています」


 シンシアも今度こそため息が我慢できなかった。

 とても大きなため息をついてこれからの事を質問した。


「それで、明日も狩りに行ってくれるというのですか」


「はい、毎日狩りに行ってやると言っていました。

 どうなされますか、シンシア様」


「明日一日かけても今日集めてきた食材を塩漬けにできるかどうかわかりません。

 少なくとも今日中には絶対にできません。

 チビちゃんの考える手ごろな雑魚をこの調子で殺されては、いくら魔境でも魔獣や魔蟲が全滅してしまって、今後の食材集めに困ることになるかもしれません。

 明日は塩田に行って塩を作ってもらいましょう。

 そのついでに今日集めた食材の一部を生き残った村に届けてください。

 これほど余裕ができたのなら、支援しないと寝ざめが悪いです。

 それに支援する事でソフィアの心も軽くなるでしょう」


「ありがとうございます、シンシア様」


「あなたにお礼を言われる筋合いではありませんよ、グレアム。

 ソフィアは私の愛する娘なのですよ。

 私がソフィアを厳しく指導していたのも愛していたからです。

 チビちゃんが従魔でいてくれるのなら、無理をさせなくても大丈夫でしょう。

 グレアムもソフィアを助けてくれるのでしょ。

 だったら領主の役割も時間をかけて覚えていけばいい事です」


「はい、シンシア様。

 差し出がましい事を口にいたしました。

 申し訳ありません」


「いえ、いいのですよ。

 グレアムが王族の地位も勇者の地位も捨てて、ソフィアを選んでくれたことは分かっています。

 ただ男女の愛情は激しく燃え上がって一瞬で燃え尽きる事もあるのです。

 特に男の女に対する愛情は移ろいやすいモノです。

 母親はそういう心配もするのですよ。

 まあ、グレアムにはそんな心配はいらないようですから、安心しました」


「有難いお言葉でございます」


「それで明日の事ですが、もう一つやってもらいたい事があります」

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