第36話:領主教育

「ソフィアの領主教育を中断しろ。

 これ以上負担をかけたらソフィアが壊れるぞ。

 従魔として繋がっている我には分かる。

 ソフィアは優しすぎるのだ、もう限界だぞ」


 シンシアはようやく自分の間違いを認める事ができた。

 従魔がここまで断言しているのだ。

 もう疑いの余地はない。

 実の母子であっても自分とソフィアが同じではないことを認める事ができた。

 ようやく愛するがゆえに同一視し過ぎていた事に気がついた。


「分かったわ、もう無理はさせない。

 愛しているからこそ後々領主として困らないように厳しくしていただけ。

 心を壊したいなんて全く思っていなかった。

 私はソフィアの母親なのだから、どんな手段を使ってもソフィアを幸せにするわ」


 シンシアの心からの言葉だった。

 母親の真心が籠っていた。

 最悪領主の座を他人に委ねてでもソフィアを護る覚悟をした。

 伝説の龍に対する誓いでもあった。

 一片の嘘偽りが有っても龍の罰を受ける覚悟だった。


「だったら早速威圧を使ってやろうではないか。

 ただ領地の近くには虫一匹近づかないからな。

 それなりの奥地にまで行かないと獲物がおらん。

 人間どもにそんな奥地まで自力でたどり着くのは不可能だ。

 だからと言って人間を背に乗せるのは絶対に嫌だ。

 だが今回だけは特別だ。

 手でつかんだ岩盤の上に乗せて運んでやる。

 岩盤の上に乗れるだけの人間を乗せろ」


 これだけはチビちゃんが妥協できない一点だった。

 主人のソフィアとソフィアの事を心から大切にしているグレアム以外は、絶対に背に乗せる気がなかった。

 それにしてもよくチビちゃんがグレアムの事を認めたモノである。

 グレアムには伝説の龍が認める何かがあるのだ。

 そうでなければいくらソフィアを心から大切にしているからと言って、ただの人間のグレアムを背に乗せる訳がない。


「分かったわ、今直ぐ人手を集めるわ。

 ただ確認させて、全く戦闘力がなくても大丈夫なの」


「俺様が威圧で魔獣も魔蟲も皆殺しにしてある。

 戦闘力など不要だ。

 年端のゆかぬ子供であろうが、足腰の弱った老人であろうが構わん。

 死んだ魔獣と魔蟲を拾い集められたらいい」


 チビちゃんの言葉を聞いたシンシアの行動は早かった。

 難民として領地に流れてきた者の中で無力な者を全員集めた。

 今領地で何か仕事のできる者にはその仕事を続けさせた。

 だからどうしても子供や老人が多かった。

 チビちゃんの言葉に乗じた訳ではないが、領地に必要な保存食を確保するには猫の手も借りたい状態だったのだ。


「シンシア様、私の傭兵団は同行させてください。

 今後の事を考えると傭兵団には魔境の奥深くを見せておきたいんです」

 

 

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