第34話:製塩
「村長、俺達には大量の塩が必要だ。
だが塩代に支払う金もなければ物々交換する物資もない」
グレアムが塩を手に入れようと塩田村の村長と交渉していた。
本来ならソフィアが交渉しなければいけないのだが、不可能だった。
ソフィアは全てを忘れて昏々と眠っていた。
グレアムが昏睡の魔術を使ってソフィアを眠らせたのだ。
シンシアのソフィアを立派な領主に育てようとする気持ちも、頑張ろうとするソフィアの気持ちも無視して、愛するソフィアがこれ以上苦しむことのないように。
「それは、先ほどの聖女様と同じように塩を奪うという事でございますか」
村長は半ばあきらめていた。
相手がグリフォンと聖女でも死を覚悟していたのだ。
それが今度の相手はグリフォンと聖女をひと飲みにするような化け物だ。
抵抗して村人全員が喰い殺されるよりは、とにかく生き延びて何とか食べ物を手に入れる方策を考えた方がいい、そう考え直していた。
「いや、違う。
そんな事をしてしまったら、ここにおられる真聖女様に叱られてしまう。
だがどうしても大量の塩が必要なのだ。
だから新たに塩を作るのに塩田を借り受けたい。
今ある塩は村が自由に使えばいい」
「それは有り難い事でございます。
よろこんで塩づくりを手伝わさせていただきます」
村長はグレアムの言葉を大きく誤解していた。
大量の塩を作る間は村を支配下に置くと言われたと勘違いしていた。
王家直轄領を押領する宣言だと勘違いしていた。
今まで王家に納めていた税よりも多い塩を納めることになると覚悟していた。
だが村長はこれで時間が稼げるとも考えていた。
それに先ほどのグリフォン聖女の言葉通りだとしたら、王家より酷い支配者などいないと言える状態になっていた。
「いや、手伝いは不要だ。
むしろ手伝おうとされると邪魔だ。
塩田に近づくと死ぬことになるから、絶対に近づくんじゃない」
グレアムはそう言うとソフィアを優しくお姫様抱っこしたままチビちゃんに騎乗し、塩田の方に飛んでいった。
今回はチビちゃんも一切グレアムに逆らわないしチャチャも入れない。
それくらいグレアムがソフィアを護ろうとした決断を認めていたのだ。
塩田についたチビちゃんは、塩田が破壊されない程度に浅く広く穴を掘った。
その穴に海から莫大な海水を引き込み、灼熱のブレスを放った。
一瞬で水分が蒸発して塩の結晶だけが残った。
チビちゃんはその工程を何度も繰り返して、塩田だった場所に大量の塩の塊、巨大な塩結晶を創り出した。
チビちゃんは砂も蒸し焼きにされた魚介類も混じった、小山のように巨大な塩結晶を穴から取り出して領地に飛んでいった。
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