第33話:聖女対決

「止めなさいキャスリーン、なにをやっているのです。

 民を殺そうとするなど聖女失格です、恥を知りなさい恥を」


 ソフィアは激怒していた。

 聖女が民を殺すなど絶対に許せない事だった。

 それでなくても精神的に追い込まれたギリギリの状況なのだ。

 相手を見て言葉を選ぶことなどとても出来なかった。


「トカゲ令嬢ごときが何を偉そうに言っているの。

 これは王命なのよ、平民ごときが拒むことなど許されない。

 平民などいくらでもいるわ。

 平民など使い捨てにすればいいのよ。

 焼こう煮ろうが殺そうが貴族の権利よ。

 お前も同じよ、王命に逆らったトカゲ令嬢など貴族とは言えない。

 平民として殺してやるわ」


 キャスリーンはどうしようもないバカだった。

 傲慢で目が曇ってしまい、見えているモノが素直に頭に届かなかった。

 小さく弱弱しいトカゲだったソフィアの従魔が、ソフィアとグレアムを乗せられるほど巨大になっているのに、何の疑問も警戒も持たなかった。

 いや、それどころか空を飛んでいるのだ、疑問を持ち警戒して当然なのだ。

 だが、生き残った事で行き成り伯爵家の当主となり、働き次第では侯爵も夢ではなくなったキャスリーンは、欲望で何も見えなくなっていた。


「やってしまいなさい、グリフォン」


 愚かなキャスリーンは従魔にソフィアを殺すように命じた。

 だがそれは余りにも愚かすぎた。

 相手は伝説の龍なのだ、グリフォンごときが相手になるはずがない。

 普通なら遠く離れた場所にいても殺気を感じて逃げだしてしまう。

 だが今のチビちゃんは殺気を抑えていた。

 何故なら従魔が逃げだすような状況にはできなかったからだ。

 万が一塩田作業に従魔を使っていたら塩づくりが止まってしまうから。


「ソフィア、見るな」


 ソフィアの後ろに騎乗していたグレアムが両手でソフィアの眼を塞いだ。

 グレアムには次にチビちゃんがやる事が予測できたからだ。

 キャスリーンが本気でソフィアを殺そうとしているのが分かった。

 そんな状態になってチビちゃんが無抵抗でいるはずがない。

 人間ごときに遠慮したり手加減したりするチビちゃんではない。

 間違いなくキャスリーンと従魔を喰らうと予測できた。

 そんな残虐なモノをソフィアに見せる訳にはいかないと思ったのだ。


「なに、どうしたの、何が起こっているの」


「大丈夫、因果応報、人殺しに相応し罰が下っているだけだよ。

 ソフィアは何も気にしなくていいんだよ。

 今は何も気にせずに目をつぶっていればいいんだよ」


 チビちゃんもソフィアの事は気にしてくれたのだろう。

 音が出ないように、血痕が残らないように、キャスリーンとグリフォンを喰い散らかすのでなく、ひと飲みにしてくれた。

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