第32話:傲岸不遜

「国王陛下からの命よ。

 あるだけの塩を供出しなさい。

 今は国家存亡の危機なのよ。

 庶民の分際で逆らうなど許しません」


 とても傲慢な言葉だった。

 民の生活、いや、命など全く考えていない言葉だった。

 王も王妃も生き残った貴族も、自分達の事しか考えていなかった。

 だから塩を売って生きている民から全ての塩を無償で供出しろと命じたのだ。

 供出という言葉で飾ってはいるが、実際には強奪だ。

 山賊や盗賊と変わりのない行動だった。


 その尖兵に選ばれたのがグリフォンの聖女キャスリーンだった。

 生き残った貴族の中でペイズリー公爵家のアレグザンドラと、リバコーン公爵家のナタリアは最上位だ。

 だから彼女達を尖兵に使うわけにはいかない。

 ワイバーンの聖女モイラは最強なので手元に置いておきたい。

 そこで選ばれたのがアラン伯爵家のキャスリーンだった。


 キャスリーンは張り切っていた。

 この役目で手柄を立てて陞爵を目指している。

 だから民に対する言動も行動も情け容赦のないモノになっていた。

 聖女候補四強と呼び称えられる事で傲慢になっていたキャスリーンだ。

 それが現役予備役の聖女がほぼ壊滅した事で現役聖女四強となっていた。

 当然傲慢な態度は候補の頃の比ではないほど酷いものになっていた。


「お待ちくださいませ、聖女様。

 全て持っていかれたら我らは飢え死にしてしまいます。

 我らが飢え死にしてしまったら、もう塩を作る者がいなくなってしまいます。

 これからも塩を納めるためにも半分だけにしていただきたいのです」


 塩田村の代表は必死の交渉をした。

 嘘偽りのない真実の言葉だった。

 長く統治するのなら民を殺しては意味がない。

 熟練職人を殺してしまったら、今後の生産にとてつもない悪影響がおきてしまう。

 王や領主なら当然理解していなければいけない事だった。

 だがキャスリーンはそんな事も分かっていなかった。


「えええい、平民の分際で聖女の私に逆らうの。

 平民の代わりなどいくらでもいるのよ。

 お前達など皆殺しにして他所から平民を連れてくればすむのよ。

 四の五の言わずに塩を全部出しなさい」


「恐れながら塩作りには熟練の技が必要になります。

 他所から民を連れて来ても塩は作れないのです。

 どうかその事をご理解ください」


「なに、私をバカにしているの。

 私をバカにするなんて万死に値するわ。

 グリフォン、殺してしまいなさい」


 キャスリーンは自分の無知を指摘されて頭に血がのぼってしまった。

 とっさに自分の無知を知ったモノを皆殺しにしようと考えた。

 何の罪悪感もなく、村を皆殺しにするようにグリフォンに命じた。

 まさにその時に、チビちゃんが現れた。

 

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