第31話:女傑
「分かったわ、王国の事は最低限でいいわ。
まずは領民の安全を確保する事。
領民のために食糧を確保するわよ。
今後一年飢えることにないようにしなければいけないわ。
ソフィアはチビちゃんと一緒に海に行って塩を確保してきなさい。
自分で作っても買っても脅しとっても構わないわ。
どんな手段を使っても塩を手に入れてきなさい」
ソフィアとグレアムは領地に戻ってシンシアに知りえた情報を全て伝えた。
シンシアは的確に質問して疑問点を潰していった。
チビちゃんにも鋭い質問をしてタジタジにさせていた。
シンシアはとても真剣だった。
領民を護るために何をしなければいけないかを考えていた。
領民を護るために何を確認しなければいけないかを知っていた。
シンシアにとって最大の懸案事項は食糧だった。
「でも母上様、他領とは言え民から塩を奪うなんて……」
聖女候補として理想論を鵜呑みにしてきたソフィアには、民からモノを奪う事にはとてつもない抵抗感があった。
だが母上から集めるように命じられた塩の量は莫大で、とても母上から渡された金額で買える量ではなかった。
だがシンシアは分かっていてあえて無茶な要求をしていたのだ。
ソフィアに領主としての考え方を教えようとしていた。
だが今のソフィアにはその教えを受け止めるだけの余裕がなかった。
「ああ、待て、待て、待て、シンシア。
今のソフィアはいっぱいいっぱいだ。
これ以上の無理はソフィアを潰しちまうぞ。
領主としての教育はもう少し余裕が出てからやればいい。
俺様がいるんだ、時間切れになんてさせない。
全力でこの領地を護ってやるから安心しろ」
「チビちゃんはそう言うけれど、今の状態では領地の食糧は半年も持たないわ。
何があってもいいように三年分の食糧備蓄をしていたけれど、大量の貧民を受け入れた事で計算が狂ってしまったの。
狩人や将兵を使って魔獣を確保する心算だけど、肉を日持ちさせるには大量の塩が必要不可欠なのよ
その食糧や塩をチビちゃんが確保してくれるのかしら。
確保してくれるというのなら、ソフィアに無理をさせなくてもいいのだけれど」
シンシアは強かだった。
女傑という言葉がピッタリの女領主だった。
戻ってきたソフィアとグレアムとチビちゃんを見て、二人と一龍の力関係を正確に見抜いて、チビちゃんを上手く使う方法を思いついていた。
領地を守り領民を生き残させるためなら、最愛の娘すら道具のように扱えるだけの心の強さを持っていた。
だからといって何の痛みをも感じていない訳ではない。
心を引き裂かれるような痛みを感じ血の涙を流している。
でもその痛みの苦しみも一切表情には表さない。
領民の為には鉄面皮となれる女傑だった。
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