第30話:決断

「さっきチビちゃんは上級魔族や魔将軍は美味しいと言っていたわよね。

 チビちゃんなら魔族にも勝てるの」


 ソフィアが期待を込めてチビちゃんに質問した。

 その心がとても重くて、その重さをまともに受けたチビちゃんを圧倒した。

 

「お、おお、おお、勝てるぞ。

 勝てる、勝てる、楽勝だぜ。

 ソフィアが望むなら魔界から渡ってきた魔族を手当たり次第に喰ってやるよ。

 ソフィアが望まなくてもあいつら美味いからな。

 いっそ魔王が渡ってこないかな。

 あいつの魔力は甘味の中にも独特の酸味と苦みがあって美味いからよ」


 チビちゃんのとんでもない発言だった。

 だがソフィアもグレアムも冷静に聞けるような心情ではなかった。

 魔獣と魔蟲が大挙して現れる三連星活動期が一年以上続く上に、魔族まで来襲してくるというのだから、心も頭もいっぱいいっぱいだった。

 そんな中でもグレアムが少しだけ冷静さを取り戻した。


「チビちゃん、とにかく人間の領域に手当たり次第マーキングしてくれ。

 その後でシンシア様に今の話をもう一度してくれ。

 ソフィア様、私達ではこの問題は背負いきれません。

 冷静に対処法を思いつけるほどの胆力もありません。

 ここはシンシア様に助言をいただきましょう。

 いえ、領民をどうやって護るべきか決断していただきましょう」


 グレアムは徐々に冷静になっていた。

 この問題は自分以上にソフィアには重すぎると考えた。

 ソフィアに生き残っている王国の民を切り捨てる判断をさせたくなかった。

 このままでは、どう考えてもまた命の選択をしなければいけなくなる。

 そんな事を何度もソフィアにさせてしまったら、ソフィアの心が潰れてしまう。

 グレアムはそう考えて全ての責任をシンシア様に押し付ける事にした。


「おお、そうだな、それがいい、それがいい。

 シンシアはソフィアの母親で領主だったな。

 領民の命をどうするかはシンシアの責任だ。

 直ぐに戻ってシンシアに決めて貰おうじゃないか」


 チビちゃんにもソフィアの心の状態が伝わっていた。

 自分が何気なく言った事で恐怖感と不安感が増大したのが分かっていた。

 謝る事はプライドが許さないが、申し訳ないとは思っていた。

 このままソフィアの心が壊れてしまったら、従魔になっている自分も心に重大な傷を負う事が分かっていた。


 現に今も意味もなく不安になったり苛立ったりしてしまっている。

 何者にも動じない龍としての根本があるから表面的な感情の動きは左右されないが、流石にソフィアの心が壊れてしまったらどうなるか分からない。

 急いでシンシアの元に行くべきと判断したチビちゃんは、言うが早いかソフィアとグレアムを背に領地に急いだ。

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