第28話:圧倒

「お願い、チビちゃん。

 食べられる魔獣は全部食べてしまって。

 もうこれ以上人間が魔獣に食べられないようにして。

 お願いだから、チビちゃん」


 ソフィアの噓偽りのない心からの願いだった。

 その心情がチビちゃんにヒシヒシと伝わっていた。


「まっかせなさい、全部食べてやるよ」


 チビちゃんは自分の大きさを変幻自在に変えながら魔獣を喰らい始めた。

 ソフィアとグレアムを騎乗させるために最低限の大きさは保っていたが、その大きさでも食べられる魔獣は目にも止まらない速さで喰らい続けた。

 同時にどうしても食べられないくらい小さな魔獣や魔蟲は、周囲に威圧を発して恐怖で死に至るようにした。


 周囲にこれ以上損害を与えないように魔術は使わなかった。

 龍族の使う人間とは比べものにならない破壊力の龍魔術は封印していた。

 天変地異を引き起こすような天候を操る龍魔術など使ったら、せっかくマーキングして安全を図った人間の住処を完膚なきまで破壊してしまう。

 人間とは全く感覚も価値観も違うチビちゃんだが、それくらいの事は分かっていたから、魔術ではなく威圧で小物を殺したのだ。


 小者とはいえ相手は魔獣や魔蟲だ。

 人間にとっては死を覚悟しなければいけない強力な敵だ。

 特に小さな魔蟲の集団に襲われて喰い殺されるのは悪夢が現実になるのと同じだ。

 そんな魔蟲や小さな魔獣が皆殺しにされた事は人族にとっては福音だった。

 小さいとはいえ魔獣と魔蟲の素材が莫大な量放置されているのだ。

 それを回収して活用できれば莫大な財を築くことができるのだ。

 

「チビちゃん、もっと魔境に近づく事はできるの。

 皆殺しにされた王都を、人族の手に取り返す事はできるの」


 ソフィアはわずかな希望を胸にチビちゃんに聞いてみた。

 自分は何もやっていないが、目に見える全ての魔獣や魔蟲を斃している。

 それどころか魔獣や魔蟲が逃げ出すチビちゃんの縄張りが広がっている。

 もう王都の間近にまでチビちゃんの縄張りが近づいているのだ。


「大丈夫だぞ、何の問題もないぞ。

 俺様の縄張りにちょっかい出せるのはバカな古代竜くらいだが、そんな実力の違いが分からなくなった愚か者は片手で捻ってやるよ。

 龍種がいるなら問題だが、今の所そんな気配はないから大丈夫だ」


「だったらお願い、王都をチビちゃんの縄張りにして。

 せめて生き残った人が御弔いに来れるようにして。

 三連星活動期までの短い間だけど、生き残った人は亡くなった人を弔いたいと思うのよ、お願い、チビちゃん」


 そう言ったソフィアだったが、チビちゃんの返事はソフィアだけでなくグレアムまで驚愕させるモノだった。

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