第27話:八面六臂
「チビちゃん、大急ぎでお願い」
チビちゃんの話を聞いたソフィアがチビちゃんにお願いをした。
心からのお願いだとチビちゃんには分かった。
「任せな、ソフィア、最速にやってやる。
背中に乗りな。
グレアム、お前も乗っていいぞ」
チビちゃんとのいつも通りの会話だった。
機嫌のいい時のチビちゃんは、なんだかんだ言ってもソフィアの言いなりだ。
だがその照れ隠しなのだろうか、グレアムには上から目線になる。
ソフィアといい関係になればなるほどグレアムに冷たくなる。
もしかしたら嫉妬なのかもしれない。
「結界を作ってやるけど落ちるなよ」
チビちゃんはそう言うと一気に空を翔けた。
竜種の中でも最速といわれる風属性の属性竜すら足元に及ばない速さだった。
転移魔術ほどではないが、同じ大陸なら転移魔術など不要と思えるほどの速さだ。
魔力消費量を考えれば圧倒的に使い勝手がよかった。
まあ普通に移動している心算のチビちゃんには使い勝手など関係なかったが。
そもそも莫大な魔力量を誇るチビちゃんは魔力消費量の違いなど気にしない。
気にするとしたら空腹で魔力が乏しい時だけだ。
「じゃあマーキングするからな。
マーキングしたら直ぐに移動するからな」
チビちゃんはそう言うと転移魔術かと見紛う程の早さで移動した。
人間の村や街の間隔など、チビちゃんにとっては人間なら手が届く程度の距離だ。
だからソフィアとグレアムには移動した感覚すらなかった。
チビちゃんがマーキングするから移動したのが分かるだけだ。
いや、ソフィアとグレアムにはチビちゃんがずっとマーキングしているように見えていたが、あまりにも時間が長いのでようやく移動していると気がついたくらいだ。
魔獣から村や街を護るためのマーキングではあったが、人間には最悪だった。
今回は特に竜すら逃げ出させる事を目的にしたマーキングなのだ。
その臭気は強烈を超えて激烈といえるほど臭かった。
それだけの意思を込めてチビちゃんはマーキングしていた。
しかもついさっき純血種竜を食べたばかりだ。
チビちゃんのマーキングの中には食べた純血種竜の臭いも入っている。
天敵といえば同じ竜種しかいないとはいえ竜も生物である。
自分よりも強い相手から逃げるという本能は備わっている。
通常は生まれたばかりの頃しか使わないが、ちゃんと生存本能があるのだ。
だからチビちゃんがマーキングした場所には竜ですら近づかなくなった。
「そろそろ魔獣が近づいてきたぞ。
雑魚ばかりで不味いし喰いごたえはないが、少しは魔力の足しになる。
喰っていいか、ソフィア」
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