第26話:王都
「ひどい、酷過ぎる。なんでこんなことになってしまったの」
ソフィアはあまりの現実に打ちのめされていた。
二人と一龍が辿り着いた王都は破壊の限りを尽くされていた。
王城はもちろん城下の家々も完膚なきまで破壊されていた。
目に入る範囲に生きている人は誰もいなかった。
残っているのは魔獣や魔蟲も舐めとりきれなかった血痕だけだった。
「ソフィア、ここで挫けてどうするんだ。
境界であれほど民を助けると言っていたのは君だよ。
自分の知る王都の民が皆殺しになったからといって、他に民がいない訳じゃない。
王都の向こうにも多くの街や村があるんだよ。
そこに住む民を助ける事こそ聖女の役目だよ」
自分の言葉に矛盾がある事などグレアムにも分かっていた。
助ける事に拘り過ぎるなと言ったり助けろと言ったり、その場その場で言っている事が違い過ぎている。
だが今はこう言わなければソフィアの心が持たないと思ったのだ。
嘘つきと言われても、今はこう言うべきだと思ったのだ。
「よう、どうすんだ、ソフィア。
ソフィアが王都に助けに行けと言ったから王都に来たけど、これでいいのか。
それともまだ魔獣に襲われていない街や村に行った方がいいのか。
俺様としては魔境に方に行ってもっと美味しい竜を探したいんだが」
「あるの、チビちゃん。
急げばまだ助けられる街や村があるの」
打ちのめされていたソフィアだったが、まだ助けられる人がいると聞いて、心を奮い立たせた。
自分の聖女としての存在意義を見出したと言えば大袈裟だが、まだ自分にもやれることがある、助けられる人がいると思い絶望感から抜け出すことができた。
グレアムはそれを見て心底安堵していた。
同時にできるだけソフィアに負担をかけたくないとも思った。
本当にその場その場で考えを変える身勝手な男だった。
グレアムの心にあるのはソフィアだけ、その為なら何時でも考えを変えられた。
「チビちゃん、ソフィアに負担をかけたくないんだ。
一番安全で効率的に民を守る方法はないかな」
グレアムは直接チビちゃんに聞いてみた。
グレアムの従魔でもないチビちゃんが言う事を聞いてくれるはずはない。
普通ならそうなのだが、今までの会話から考えれば期待ができた。
伝説の龍だけあって普通の従魔では期待できない知性と感情があった。
ソフィアのためになると言えば考えてくれたりやってくれたりするかもしれない。
グレアムはそんな期待をしていたのだ。
「そうだな、最速で三連星活動期の影響が及ぶ一番遠くまで行って、その辺で縄張りを主張してから徐々に戻るのがいいかな。
そうすれば魔獣が進む範囲が狭くなるかな」
グレアムの期待は応えられた。
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