第25話:葛藤

「まって、待つのよ、チビちゃん。

 だめ、王都に助けに行くのよ、チビちゃん」


 ソフィアは必死でチビちゃんを操ろうとした。

 だがそれが逆効果になっていた。

 龍のような強大な聖獣に命令などできる訳がない。

 寄り添い愛情によって助けてもらう謙虚さが必要なのだ。

 それでなくても今のソフィアは精神的に不安定になっている。

 情緒不安定な状態で命令しても従ってくれる訳がない。


 チビちゃんはまっしぐらに純血種竜に向かっていった。

 属性竜ですら小山のように大きかったのだ。

 純血種竜はその十倍以上の体積と百倍近い魔力を持っている。

 その強さは数日前に戦った地竜のなど足元にも及ばない。

 しかもとても凶暴だった。

 三連星活動期で一緒に魔境をでた魔獣を手当たり次第に喰っていた。


「落ち着くんだソフィア。

 ソフィアが落ちつかないとチビちゃんが暴走するのが分かったろ。

 自分の欲は棄てるんだ。

 聖女だから何を振り捨てても誰かを助けるなんて傲慢すぎる。

 その振り捨てる相手は気の優しい身近な人になるんだよ。

 彼らに犠牲を強いて縁の薄い人を助けて聖女づらしたいのかい。

 まずは自分を支えてくれている人を優先するんだ。

 領民を助けられなくなるケガをするような無茶をしてはいけない。

 ずっと税を納めてソフィアを支えてくれていた領民を、直ぐに助けに戻れない所に行ってはいけないよ」


 グレアムは真摯にソフィアに話しかけた。

 ソフィアの慈愛の心はとても素晴らしい。

 伝説の龍が従魔になったのだから間違いはない。

 もしかしたら単なる偶然、確率の問題かもしれないが、可能性は無視できない。

 だが、その伝説の龍チビちゃんが暴走すると言う事は、行き過ぎだという事だ。

 行き過ぎているのなら諫めなければいけない。

 グレアムはそう思っていた。


 そしてそれ以上にソフィアを愛し大切にしていた。

 ソフィアに不要な危険を冒して欲しくなかった。

 安全第一で動いて欲しかった。

 聖女として最低限の戦いは仕方がないが、それ以上の戦いは止めたかった。

 そのための諫言だった。


「……分かったわ、確かにその通りよね。

 チビちゃんが言う通りしてくれないのは、私が悪からだもんね。

 チビちゃん、お願い、私を助けて、民を助けて」


 ソフィアは自分の無力を思い知り、命じるのではなく助けを求めた。

 口先だけの事ではなく、心からチビちゃんに助力を願った。

 その真摯な気持ちがチビちゃんに伝わったのだろう。

 一撃で斃した純血種竜を貪るように喰っていたチビちゃんが、渋々止まった。


「分かったよ、手伝ってやるよ。

 でもこれを全部っ喰ってからだぞ」


 そう言ったチビちゃんは半分ほど残っている純血種竜を再び喰い始めた。

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