第23話:王宮での出来事
少し時間が遡る。
チビちゃんが領地の周囲をマーキングしていた頃の事だ。
王都に魔獣が大挙してあらわれていた。
王都城壁を易々と乗り越えて無差別に民を喰い殺していた。
「陛下、国王陛下、魔獣が大挙して押し寄せてきます。
このままではとても防ぎきれません、今直ぐお逃げください」
スフィンクスの聖女ナタリアが王宮の奥深くまで入って叫んでいた。
側室腹とはいえリバコーン公爵家の令嬢だ。
王立聖女学園で四強と呼ばれる聖女候補だ。
魔獣が大挙して押し寄せてきているとなれば、普段の礼儀作法を省いて国王陛下や王妃殿下との謁見が可能だった。
同じようにペイズリー公爵家出身のペガサスの聖女アレグザンドラも、負けじと撤退を言い立てている。
自分達の敵前逃亡を正当化するためだった。
ここで国王陛下や王妃殿下が魔獣の大侵攻を迎撃するとなったら、敵前逃亡した四人は厳罰に処されてしまう。
「国王陛下、王妃殿下、私達が殿を務めて魔獣を防ぎます。
ここで撤退するのはお悔しいでしょうが、国を復興させるためには国王陛下と王妃殿下には生き延びていただかないといけません。
どうかここはお逃げください」
弁の立つアラン伯爵家出身のグリフォンの聖女キャスリーンが、国王と王妃が逃げやすいように誘導する。
国王と王妃も本心では逃げたいと思っているのが彼女達には分かっていた。
勝てる魔獣が相手なら勇名を得るために戦うが、勝てない相手と戦って無駄死にするような人間でない事を知っていたのだ。
民のために命を捨てるような国王や王妃ではない事を知っていたのだ。
四強の中で最強の魔獣を従魔にしている、ストラバーン男爵家出身のワイバーンの聖女モイラは何も言えなかった。
まだ聖女候補でしかないので、聖女学園の外では男爵令嬢として扱われる。
貴族でも最下級の男爵令嬢では国王陛下や王妃殿下に自分から話しかけられない。
ただ黙って他の三人が話すのを聞いているしかない。
それがモイラの劣等感を激しく刺激していた。
「分かった、キャスリーンの申す事はもっともだ。
三連星活動期が終われば魔獣達は魔境に戻っていく。
その時に余と王妃がいなければ国を立て直すことができなくなる。
ここは屈辱に耐え他日を期すべきであるな。
よくぞ申してくれたぞ、キャスリーン。
よく危機を知らせてくれた、ナタリア。
急ぎ離宮に逃げようメアリーよ」
「はい、陛下」
国王と王妃は家臣と国民を見捨てた。
空を飛べる従魔を使役できる者など極少数だ。
ワイバーンを従魔にしているメアリー王妃を含めて十人程度だ。
他の現役予備役聖女は魔境との境界線にいたのだ。
多くの貴族や騎士が騎馬で逃げようとしたが、果たして逃げきれるものか……
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