第22話:困惑
ソフィアにチビちゃんの困った感情が伝わって来た。
徐々にチビちゃんの気持ちが詳細に分かるようになっていた。
「無茶言うなソフィア。
相手は嗅覚も聴覚も人間よりはるかに優れた魔獣と魔蟲だぞ。
小さい奴らならわずかな隙間からでも入り込めるんだ。
城や屋敷の奥深くに隠れようと、地下室に隠れようと無駄だ。
この辺りの人間は全員喰われちまってるよ」
チビちゃんが思いやりの欠片もない言葉を吐く。
だがそれも仕方がない事だった。
従魔になっているとはいえ元は龍なのだ。
龍のような強大な存在に人間など虫以下の存在なのだ。
人間は歩く時にいちいち踏みつける地面にいる虫の事など気にしない。
いや、まだ目に見える虫の事なら気にする人がいるかもしれない。
だがそんな人も、目に見えない微生物や菌の事は気にしないだろう。
それと同じだった。
龍にとっての人間は、人間にとっても微生物同然なのだ。
その生き死になど全く興味がないのだ。
「くっ、分かったわ、だったら直ぐに王都に向かって。
王都にいる人達は助けるのよ。
もちろん王都までの道で生きている人がいるなら助けて。
これは主人としての命令よ」
ソフィアは精神的に追い詰められていた。
普段ならチビちゃんを猫かわいがりするソフィアが主人として命令を下す。
それも厳しい命令口調でだ。
魔境との境界線があまりに凄惨な状況だったから、心が壊れかけていた。
グレアムはそんなソフィアの状況を見過ごさなかった。
「ソフィア、落ち着いた方がいいよ。
ソフィアが精神的に不安定だと、チビちゃんまでが不安定になる。
チビちゃんを上手く操れなかったら、とんでもない災厄が始まるよ。
伝説の龍が際限なく暴れ回るかもしれないんだよ。
深呼吸して落ち着くんだソフィア。
それでも今の状態のままなら、目付け役として帰領を命じるよ。
それでもいいのかい、ソフィア」
ソフィアはグレアムの言葉にとても腹を立てていた。
この状況で王都への救援を禁止するなど信じられなかった。
涙を流し過ぎて真っ赤に充血した目でグレアムを睨みつけた。
なんとしてでも王都に助けに行く。
ソフィアの真っ赤な眼と真っ青になった表情はそう主張していた。
だがその願いはチビちゃんに打ち砕かれてしまった。
「おっ、おっ、おっ、無茶苦茶おいしそうな臭いじゃないか。
こりゃあ、純血種竜の臭いだぞ。
純血種竜を喰うのは久しぶりだな」
チビちゃんはそう独り言を言うと、ソフィアの願いなど無視して魔境の方に勢いよく飛び出した。
「ちょ、ちょっと、まちなさい、待つんですチビちゃん」
ソフィアは必死でチビちゃんを止めようとするが、チビちゃんは全く言う事を聞かず、ただ真直ぐに美味しい匂いのする方向に向かっていった。
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