第15話:食欲

「グッエップ、喰った喰った、満足満足」


 ソフィアもグレアムも傭兵達もあまりの事にあっけにとられていた。

 本当にものの見事に小山のような地竜を一飲みにしてしまった。

 まあ、丸呑みだと腹から喰い破られてしまうので、ちゃんと殺してからだ。

 一噛みで顔の上半分かみ砕いで即死させた。

 後は蛇のように大口を開けて飲み込んでしまった。


「あ、おう、こら、魔宝石だ魔宝石。

 魔宝石があれば城砦に防御魔法を展開できる。

 魔宝石を吐きだすんだ、チビちゃん」


 茫然自失になっていたグレアムが我を取り戻し、チビちゃんにせっついた。

 魔獣は体内に魔力器官をもっている。

 魔獣の強さは魔力器官で創られる魔力量によって決まる。

 魔力器官は魔獣が死ぬと魔力を蓄えた状態で結晶化する。

 総じて魔核と呼ばれているが、その大きさと魔力容量によって魔石、魔晶石、魔宝石と呼び分けられている。


 低級の魔石でもそれなりの価格で取引されている。

 それが魔宝石と呼ばれるほどの魔力容量だととても高価に取引される。

 小山のような地竜から採取された魔力器官なら間違いなく魔宝石だ。

 グレアムでなくても確保したいと思うのは当然だった。

 だが、チビちゃんの返事はつれないモノだった。


「はっああああ、なんで一番美味しい魔核を他人にやらなきゃいけない。

 俺の成長に魔核は必要なんだよ。

 絶対に吐き出すもんか、それにもう消化しちまった」


 とんでもない話だった。

 さっき食べたばかりの巨大な地竜をもう消化してしまったという。

 それが嘘でない事は、あれほど膨らんでいたチビちゃんの腹がみるみる細くなっていくことで一目瞭然だった。


「とんでもない食欲だな。

 だが喰った分だけ強くなるというのなら、地竜一頭分強くなったんだな。

 聖女学園の聖女候補など簡単に負かせるんだな。

 いや、候補だけじゃない、現役も予備役もまとめて勝てるんだな」


 グレアムはとても重大な事を単刀直入に聞いた。

 グレアムにとって大切なのは国でも地位でもない。

 ソフィアが何より一番大切なのだ。

 チビちゃんが伝説の龍で、候補、現役、予備役全ての聖女を負かしたら、ソフィアが大聖女としてこの国に君臨することになる。


 ソフィアとの婚約を優先して勇者候補役も王子の地位も捨てたグレアムだが、ソフィアが大聖女に成れば間違いなく戴冠することになる。

 今さら第一王子や有力勇者候補がソフィアとの結婚を画策しても、女傑のシンシアがそんな身勝手を許すはずがない。

 だがグレアムはソフィアにぞっこんである。

 ソフィアが嫌がるなら無理に聖女候補に戻そうとは思っていない。


「一旦居城に帰ってシンシア様に報告しませんか、ソフィア嬢」

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