第13話:見敵必戦

「チビちゃん、分かっているんでしょうね。

 ソフィアはこの領地の後継者なのよ。

 ソフィアに何かあったら、多くの家臣領民が困ることになるの。

 それが分かっていて魔境に入ったら強くなると言っているのね」


 シンシアが笑みを浮かべながら、でも射抜くような鋭い視線で睨みながら、チビが後に引けない厳しさを込めた言葉を突き付ける。

 その厳しさにソフィアは自分の立場を改めて強く意識した。

 聖女候補である以前に、母親の領地を受け継ぐ人間なのだと。

 自分が死んでしまうと、どんな人間が領主になるか分からないのだと。


「へん、任せておきな。

 俺様は伝説の神龍の末裔だぜ。

 魔力さえ喰えれば無敵さ。

 ただ、まあ、なんだ、魔力を喰うまでは力が……」


 最初威勢がよかったチビちゃんだが、シンシアの一向に弱まる事のない余りにも鋭い視線に徐々に声が小さくなってった。

 そして今の状態では魔力が足りない事を自白してしまった。


「分かりましたわ。

 ではグレアム殿、全傭兵団を率いてソフィアを護衛しなさい。

 先程言っていた出城というのが魔境内にあるならそこを拠点にしなさい。

 出城が魔境から外れているのなら、逃げる時に籠って魔獣の足を止めなさい。

 何があっても、例えグレアム殿が死ぬことになっても、ソフィアを護りなさい」


 シンシアは全く迷わなかった。

 グレアムがソフィアの婚約者だった事も元王子である事も無視した。

 自分の娘を、次期領主を護る事を最優先に考えて命じた。

 だからと言って領地の戦力は一騎一兵もつけない。

 全ての戦力を領民を護るために使う。


 民が考える理想の領主そのものだった。

 だがその内心では悩み苦しんでいた。

 領民に領主として最善を尽くした事を示すだけなら、戦力の全てを城砦守備に回すだけでいい、ソフィアを魔境に送る必要はない。

 そうすれば自分もソフィアも居城の守備力で命を失う事はない。


 だが今回は三連星活動期だ。

 居城はともかく魔境周辺にある領民保護用砦が魔獣に蹂躙される可能性が高い。

 全ての城砦を守り切り、一人の領民も死なせたくないと思えば、チビちゃんの大言壮語に賭ける必要があった。

 シンシアは全ての領民を護るために、自分の命よりも大切な一人娘ソフィアの命を、チビちゃんに賭けたのだ。


「うひょおオオオオオ、大物じゃねえか。

 これは喰らいがいがあるぜ」


 グレアム傭兵団の護衛されたソフィアとチビちゃんが出城の辿り着き、チビちゃんが貪欲に周囲の魔力を貪り喰って一時間が経った頃、魔獣が襲い掛かってきた。

 それもただの魔獣ではない。

 小山のように巨大な属性竜、地竜が地響きをたてながら襲いかかって来たのだ。

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