第12話:見殺し

「ふん、この程度の魔獣に突破されるなんて、現役も大したことないわね。

 これなら直ぐに私が筆頭聖女になれそうね」


 王都の城壁を乗り越えて聖女学園にやってきた魔獣を、スフィンクスが斃すのを見ながらナタリアがうそぶいた。

 確かにその場にいる魔獣はそれほど多くない。

 一気に城壁を乗り越える事ができる足の速い魔獣だけしかいなかったのだ。


「ふん、スフィンクス使い程度が何を言っているのよ。

 最強は私のワイバーンよ。

 やっておしまい、私のワイバーン」


 モイラがそう命じるとワイバーンが魔獣を斃しはじめた。

 聖女学園から少し離れた場所にいる魔獣を手当たり次第噛み殺していった。

 速さが一番の力だった魔獣ではワイバーンにはかなわない。

 ワイバーンの圧倒的な強さはスフィンクスを凌いでいた。


「ちっ、グリフォン、行きなさい。

 あなたも負けずに魔獣を狩ってきなさい」


 キャスリーンの命令を受けたグリフォンが、スフィンクスとワイバーンが戦っているよりも遠い場所にいる魔獣を狩りだした。

 そこにいるのも速さが一番の魔獣だ。

 グリフォンならば斃せる魔獣ではあるが数が多すぎた。

 グリフォンは純粋な戦闘力ではスフィンクスとワイバーンよりも劣るのだ。

 それがスフィンクスとワイバーンよりも多い魔獣を相手しては苦戦する。


「高貴なわたくしに乱戦は不向きですわ。

 それに王城の守備を疎かにはできませんわ。

 わたくしは王城を護りに行ってきますわ」


 アレグザンドラは逃げた。

 口では王城を護るためといいながら、三強と純粋な戦闘力比較をしたくなくて。

 それにどうせ戦うのなら王族の前で戦った方がいい。

 王家の戦目付がいない場所で戦っても評価されない。

 アレグザンドラはそう計算していた。


 だがそんな事など些細な事だと彼女達は直ぐに思い知った。

 ある程度の魔獣を斃し切った後、早さは少し劣るが強い魔獣が現れた。

 それも五倍もの数の魔獣が押し寄せてきた。

 それでなくても数の力に対処できなかったグリフォンが一番に逃げだした。


「ふん、私もこんな事はしていられないわね。

 王城を護る事が一番だわ」


 キャスリーンが逃げる事の言い訳をした。

 優勢に戦っているナタリアとモイラに聞かせるために。

 だがこれでスフィンクスとワイバーンだけで戦う事になった。

 とてもではないが数の暴力にはかなわない。

 それはナタリアとモイラにも分かる事だった。


「「王城を護るのが聖女の務めだわ」」


 二人同時に言い訳をしながら戦場から逃げだした。

 聖女学園に残される取り巻き達の事など想いもしなかった。

 このままでは彼女達が魔獣に喰い殺されることが分かっていたのに。

 


 

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