第10話:王立聖女学園

 王立聖女学園と王立勇者学園は蜂の巣を突いたような状態だった。

 三つの月の動きが暦の予測と違った事、三連星活動期になりそうなことが伝えられ、全生徒に動員がかけられたからだ。


 常在戦場の精神で、いついかなる時でも戦場に駆けつけられるようにしておく。

 それが両学園の基本理念なのだが、できなかった。

 先頭に立つはずの王立聖女学園学園長、リバコーン公爵家当主ダグラスが臆病風に吹かれて仮病を使ったからだった。


 魔境を見張っている卒業生、現役聖女や現役勇者と連携をとるはずの学園生が駆けつけない事で、後詰めのない状態で三連星活動期を迎えてしまう。

 予備役となっている元聖女や元勇者も、長らく動員がなかった事で緊急動員が形骸化していた。


 何より問題だったのは、ダグラスが公爵の地位を利用して王立聖女学園学園長に成って以降の卒業生と在校生が、実力も人間性も劣化していた事だ。

 人間性が劣化すれば、神々の寵愛を失う事に直結する。

 神々が人間との約束を破る事はないが、寵愛を失えば与えられる加護が最低条件となるのは当然の事だった。


 現役の聖女と勇者が護る魔境は易々と突破された。

 休眠期とは比較にもならない狂暴強力な魔獣や魔蟲が、大挙して王都に襲いかかって来たが、ここで勘違いした聖女候補性が矮小な内部競争をしていた。


「ほぉほっほほほほ、やはり私以外に救世主はいませんのね。

 現役の方々など私が現れるまでの前座でしかありませんわ。

 私こそが聖女の中の聖女、大聖女ですわ」


 グリフォンを従魔に得たアラン伯爵家の令嬢キャスリーンが、取り巻きの聖女候補や魔獣を得られなかった元聖女候補を配下に置き、他の聖女候補と争っていた。


「ほぉほっほほほほ、寝言を口にするのは止めてくださいな。

 グリフォンなど、戦うだけしか能のない粗野な従魔。

 伯爵家ならその程度でしょうが、公爵家の私には神聖な従魔が与えられましたの。

 神聖な従魔であるペガサスこそが真の従魔ですわ。

 だから救世主はわたくしかいません。

 私こそが真の聖女、真聖女ですわ」


 ペガサスを従魔に得たペイズリー公爵家の令嬢アレグザンドラも、取り巻きの聖女候補や魔獣を得られなかった元聖女候補を配下にして、負けずに言い争いをする。


「ほぉほっほほほほ、御二人こそ白昼夢でも見ておられるのかしら。

 王立聖女学園に爵位など関係ありませんわ。

 最強の従魔、竜種のワイバーンを従魔にしているわたくしこそが最強。

 だから救世主はわたくしかいませんわ。

 私こそが最強の聖女、最強聖女ですわ」


 ワイバーンを従魔に得たストラバーン男爵家の令嬢モイラも、取り巻きの聖女候補や魔獣を得られなかった元聖女候補を配下にして、従魔の強さを強調する。

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