第8話:活動期

「大変でございます、シンシア御嬢様。

 月の動きが計算外です。

 このままでは最悪の三連星活動期になってしまいます」


 領地の城を預かる城代が真剣な顔をして遅い時間にやってきました。

 領地に戻って以来このような姿を見るのは初めてです。

 顔色も悪くよほどの凶事が起こった事が分かります。

 それにしても母上様は未だに御嬢様なのですね。

 離婚したのなら分かりますが、まだ籍は入ったままだと思うのですが。


「慌てるのではありません。

 月の動きが計算外になる事は史実でもあった事です。

 城も砦もそのためにあるのです。

 急いで全ての領民を城砦に収容しなさい。

 騎士団と徒士団に動員をかけなさい」


「は」


 母上様の命を受けた城代が急いで下がり命令に従おうとしています。

 それにしても三連星活動期ですか。

 聖女学園で習いましたが、魔境の魔獣が大量に溢れ出てくる時期です。

 聖女学園も勇者学園もこの時のために設立されたと言えます。

 今頃ハミルトン王国でも魔獣を迎え撃つ準備をしている頃です。

 そんな事を考えているとグレアム元王子が謁見許可を求めてきました。


「シンシア様、ソフィア様、謁見を許可して頂き感謝いたします。

 重ね重ねのお願い申し訳ないのですが、我らの出陣を許可して頂きたいのです」


 グレアム元王子が傭兵団の出陣許可を求めてきました。

 私の提案が認められて、グレアム傭兵団は予定数の十分の一以下になっています。

 安定志向の人間は傭兵よりも徒士団に入ることを選びました。

 傭兵としてはとても働けない者達は、全員母上様の使用人になりました。

 子供にも老人にもちゃんと仕事があったのです。

 魔境で狩られたり集めたりした素材を、丁寧に仕分けしたり洗ったりする仕事が沢山あったのです。


「大丈夫なのですか、グレアム様。

 三連星活動期の魔獣はとても凶暴ですよ」


 母上様が本気でグレアム元王子を心配しています。

 勇者学園で優秀な成績を修めていたとはいえ、しょせんは訓練です。

 ここに来てから魔境で順調に狩りをしているとは言っても、それは休眠期です。

 初めての活動期が、単独活動期ではなく歴史書で最悪と記録されている三連星活動期なのです。


「大丈夫です、シンシア様、ソフィア様

 魔境との境界線を調べていたのですが、放棄された出城がありました。

 そこに籠って戦えば前面だけに気を付けて戦う事ができます」


 グレアム元王子は自信があるようですが心配です。

 

「そうですか、決意は固いようですね。

 では一つだけ命じておくことがあります。

 一度の活動期で無駄死にすることは許しませんよ。

 聖女も勇者も民を護るためにいるのです。

 民が一人でも生きている限り、自分の名誉を優先して死に逃げる事は許しません」


 母上様の言葉が胸に突き刺さります。

 従魔を得た聖女の私が安全な城内で震えている訳にはいきません。


「ソフィア、貴女も同じですよ。

 聖女に選ばれたからには、民を護って戦う責任があるのです」


「分かっているよ、三連星活動期だろうと私がいる限り一人の民も死なさないさ」


 私の従魔が話しました!

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