第6話:旅は道連れ世は情け

「公爵夫人様、どうかこの子達を御救いください。

 今のこの村に、この子達を養う力はありません。

 移民に加えてやっていただきたいのです。

 伏してお願い申し上げます」


 立ち寄る村、立ち寄る村で移民団の数が増えます。

 今回はまだ将来性のある子供ですからまだましです。

 この件に関しては母上様ではなくグレアム元王子の責任で。

 だから返事は母上様ではなくグレアム元王子が答えます。

 

「分かったよ、働けるようになるまでに使った費用は将来返してもらう。

 それを返し終えたら自由の身だよ。

 奴隷ではなく年季奉公だから安心してくれればいいよ」


 グレアム元王子にはこだわりがあるようです。

 奴隷を持つ事を極端に嫌います。

 でも私には奴隷と年季奉公の違いがよくわかりません。

 いえ、前世の記憶や知識で違いは知っています。

 分からないのはこの世界での細かな規定の事です。


 幼い頃から聖女学園に入って社会と隔絶させられて生きてきたのです。

 たまに学園から出て社交をしても、公爵令嬢としてチヤホヤされてきたのです。

 一般社会、平民の事はさっぱりわかりません。

 まして奴隷と年季奉公にどこまでの権利や義務があるのかが全く分かりません。


「まあ、まあ、まあ、まあ、グレアムは立派ですわね。

 将来傭兵団長として勇者以上の活躍をしたら、この事も美談として吟遊詩人が唄にして大陸中に広めるでしょうね。

 とても楽しみですわ」


 母上様がとても楽しそうにニコニコされています。

 だからグレアム元王子の言っている事は立派な事なのでしょう。

 それが分からない教育をしていた聖女学園はダメな教育機関ですね。

 元々ダメな教育機関だったのか、それともリバコーン公爵のせいでダメな教育機関になったのか、とても気になります。


 嫌であろうと、嫌っていようと、リバコーン公爵は私の父です。

 リバコーン公爵の失敗は私への批判に繋がります。

 縁を切れば表向きの非難は避けられますが、陰口までは封じられません。

 社交界の、それも女社会の陰口は陰湿なのです。


 それは聖女学園も同じでした。

 トカゲに加えて父の失策となるとどれほど虐められた事でしょう。

 聖女学園から逃げられたのは、むしろ良かったのかもしれません。

 問題は母上様の領地がどんなところかです。


「公爵夫人様、どうかこの者達を御救いください。

 今のこの村では年老いた者を養う事ができません。

 御情けを持ちまして連れて行っていただけませんでしょうか。

 伏してお願い申し上げます」


 立ち寄る村すべてで孤児や貧民を押し付けられます。

 今回のようにろくに働けない年寄りを村長から押し付けられる事があります。

 その全員をグレアム元王子は受け入れてしまいます。

 母上様はうれしそうにニコニコと笑っているだけです。

 私は心配でたまりません。

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