第5話:移民団
ガタゴトと馬車が進みます。
母上様と私、それにグレアム元王子が乗っています。
母上様が嫁ぐときに花嫁道具に持ってこられた豪華絢爛な馬車。
この国の王ですらこれほどの馬車は持っていません。
この馬車で母上様の台所領に行くのですから、とても目立ちます。
いえ、この馬車だけが目立っているわけではありません。
この馬車の前後には五台ずつの戦闘馬車が護衛をしています。
更に隊列のはるか先と後ろには、偵察と後備の騎馬隊がいます。
しかもそれだけではないのです。
万に近い移民希望者と彼らの食糧を運ぶための荷車まで一緒なのです。
全てはグレアム元王子のお願いが原因です。
「よかった、断られたらどうしようかとハラハラドキドキしていました。
ただ申し訳ないのですが、婿入りの為の持参金が全くないのです。
ないどころかシンシア様におねだりすらあるのですよね」
「まあ、愛のために身一つで婿入り、なんて素晴らしいのでしょう。
それこそ純愛ですわ。
グレアム様は勇者学園でも優秀な成績を収めておられましたもの。
領地のために働いてくださるでしょうから、身一つでも構いませんわ。
ただお願いというのは、聞いてみなければお返事できませんわね」
「勇者に選定されたら、王都の貧民を集めて勇者隊を創設しようと思っていたのですが、勇者学園を退学するとその夢が不可能になってしまいます。
そこで夢の代案として、俺を団長とした傭兵団を創設したいのです。
ですからシンシア様に傭兵団のスポンサーになっていただきたいのです」
「まあ、まあ、まあ、まあ、なんて素晴らしいのでしょうか。
歴代の勇者でもそのような事を考えた方はおられませんわ。
私の可愛いソフィアの婿が勇者を超える傭兵団長。
吟遊詩人が大陸中を語り歩いでくれるでしょうね。
喜んで資金援助させていただきますわ」
いえ、そのお願いをすんなり認めた母上様の酔狂も悪いのです。
私だって貧民を役立てるのは素晴らしい事だと思います。
でも、本当に大丈夫なのでしょうか。
万に近い貧民を養えるだけの力が母上様の台所領にあるのでしょか。
領地の事を知らない私は、勝手向きが心配でも何も言えません。
王都の貧民達を引き連れて領地で静養するなんて前代未聞です。
しかも王子の地位を捨てたグレアム様と一緒にです。
王都中が大騒ぎになりましたが、母上様もグレアム様も涼しい顔です。
可哀想だったのは母上様の護衛達です。
さすがに侍女達を貧民街には行かせられません。
貧民を集めるのは母上様の実家から付いてきた守護騎士達です。
ただ言い出しっぺのグレアム様も動かれました。
グレアム様の傅役、護衛騎士、従者が率先して働きました。
驚いたことに、彼らは役目を辞して当主の座を子弟に譲り、グレアム様についてくるというのです。
だから今は彼らが王都の傭兵を集めて貧民を指揮しています。
資金は全て母上様が出されているというのですから驚きです。
母上様はいったいどれほどの資金力をお持ちなのでしょうか。
これだけの事が全部私の為の愛情だというのですから、重すぎます。
重過ぎて胸が一杯です。
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