第2話

 初めて人を殺したのは、いつだっただろうか。遠い記憶。ありきたりだ。拳銃を持って、引き金を引く。ただそれだけだった。

 いつかそれが――自分にとって非日常だった筈のそれが日常になって、やがて生活の糧となった。違和感も嫌悪感も、驚くほどになかった。何十年と、そんな生活を続けてきた。

 そして何の因果かは知らないが、この世界にやってきた。


「お前は変わらねえよ。十五年前のあの日からだ」

「そうか」

「しかし、相変わらずお前達の扱いは悪いままだな。先の大戦じゃあ捨て駒同然にこき使われた挙げ句、終わったらポイだ。・・・それが、戦後も変わらねえと来たもんだ」

「・・・俺たちは一律根無し草、戸籍もなければ人権もない。おまけにほぼ無尽蔵に手に入れば、誰だってそうする」


 昔のおとぎ話が現実になったのが、今から約二十年前。某国の科学者が偶然開発した、一種の『転送装置』。この世界でない何処かから、人間ないし人間に近しいものが無尽蔵に転送されてくる、と言った代物。

 平時であれば、この技術は賞賛こそされ、積極的に活用などされなかっただろう。――だが、某国が隣国との開戦直前の弱小国だったことと、その『転送装置』が吐き出す物に共通したある特徴が、それの実用・量産化を推し進める要因となった。


 それは――『強力な不死性』。如何なる傷を負ってもたちどころに回復するというその唯一無二の特徴は、『無尽蔵』という特徴と合わせ、兵器として扱うには余りに最適が過ぎた。さらには急激な研究の進行により、比較的早期に実用・量産化が為されたことが、そのことに拍車をかけた。

 結果として下馬評を覆し、隣国との戦争に勝利した某国は、即座に次の行動に移った。――外貨獲得の為の輸出である。実際には大幅に性能を落としたモンキーモデルの上に価格も法外であったが、各国はこぞって輸入した。


 その結果が――代理兵による世界大戦。結果は、火を見るより明らかであった。

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