第1話

 外は雪だ。幾ら車内でも、外気との壁は薄い鉄板一枚。十二月の夜風と共に、寒さが忍び込んでくる。

 後部座席、男が一人。底光りする目がヘッドライトの先の暗闇を睨み、黒髪はポマードで撫で付けてある。黒いコートに黒い手袋、不審者然とした風体。北国の深夜である。


「もっとまともな格好はなかったのか、え?」

「・・・中はスーツだ。問題ないだろう」

 

 運転席の老人の言葉を半分流しながら、男は窓の外を見やった。街灯の光に粉雪がキラキラと瞬き、後方へ流れていく。


「雪がこんなに綺麗だとは、思わなかった」

「らしくもねえことを言う・・・雪だけさ。他は皆、汚いものだらけだ」

「・・・もっと希望を持って生きられないのか」

「お前さんには言われたかねえな、この刹那主義者が」

「・・・俺は快楽を求めてないし、瞬間を充実させる努力もしてない」

「・・・じゃあ、なんで生きてる」


 男は少し考えると、疲れたように言った。


「・・・・・・生きてることに流されてるのさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る