第49話 ハラルドと聖教会の僧侶リザ
俺とナタリーは二人で決意を新たにした。
離れた場所から誰かの足音が近づいてきたのは、そんな時だった。
「誰だ!」
ナタリーと手を握ったまま、懐に手を伸ばして杖を取った。
隠蔽の魔法はもう間に合わない。シャランと、独特な音を鳴らして近づいてくる。影から姿を見せたのはたったの一人だった。
魔力街灯の光に照らされたのは、錫杖を手にした青髪の少女だ。
「リザ……!!? どうしてここが分かった!」
「さ、さっきの人です……?」
俺は杖を抜いたまま、警戒心剥き出しで問いかけた。
ナタリーは慌てて俺の後ろに隠れた。
一度立ち止まったリザは、そこから動く気配はない。
「わたしのスキル、覚えてない?」
「スキル……ステータスオープン、だったか?」
首を傾げる彼女を警戒しながら、教会で交わした会話を思い返した。
「そう。『
「それが何だっていうんだ……?」
「わたしは、パーティにいた頃から解除していない。それは、あなたの状況を常に把握するためだった」
「……ッ、おい。それってまさか、今いる場所も」
信じられない想いで尋ねたが、意に反してリザは無言で頷いた。
俺は思わず天を仰ぐ。
「居場所までバレるのか。この街まで俺を追いかけてこられたのは、そういうわけか」
「うん」
リザは頷いて肯定する。
俺の『代行魔術』に比べて、何と汎用性のある、恐ろしいスキルだろう。
この少女を倒さないと、俺は一生教会からは逃げられないことになる。何をしても無駄だと分かってしまったので杖を下ろした。
「ここに来たってことは、俺とナタリーを捕まえにきたんだろうな」
「そういう任務は受けている。でも今はそれどころじゃない」
「それどころじゃないって……お前、さっきの男と、俺のやりとりを聞いていただろう」
俺は困惑した。
俺とパウルが戦っている間、リザの意識はあったはずだ。
俺は監視対象で、そのうえ教会を燃やした大罪人と兄弟であると知っているはずなのだ。捕まえに来たわけでないのなら、何のつもりだろうか。
(いや待て。よく考えると、何か変だ)
今のこの場に来ているのは、リザのほかに教会の人間の気配がいくつかある。
外に二、三人といったところだろうか。
少なすぎる。
教会は俺の弱点を知っている。本気で抑えるつもりなら、踏み込んで直接俺とナタリーを引き剥がせばよかったはずだ。
(たまたま教会の人間が、どこかに出払っているとか……いや、ありえないな)
これだけの大騒動だ。
教会の人間が出払っていて、これだけしか人数を確保できなかったということも考えられる……が、悪魔信仰家系の人間を相手に、この体制はありえない。
「何が狙いだ?」
「質問に答えてほしい。まだ、尋ねたいことはあるから」
尋ねると、リザは素直に答えた。
教会の会話は途中で遮られた。あの続きがしたいと言っているのだろうか。
「悪いが、そんな場合じゃない。行かせてもらうぞ」
しかし、今は一刻も早くパウルを止めにいくのが先決だ。
止めにくるかと警戒したが、かえってきた言葉は淡々としたものだった。
「あなたのお兄さんと、聖教会。どちらも相手にするつもり?」
「…………」
「一時休戦して。あの罪人を止めるために、わたしたちも情報が欲しい」
相変わらずリザは言葉が足りない。
だが読み取れるのは、教会側は俺の持ってる情報を求めており、そのために誤飲な手段をとらずに交渉に来ていたようだ。
ナタリーは少し安心した様子を見せて、袖を引っ張ってきた。
「ハラルドさん、いいんじゃないですか……?」
だが俺は首を横に振って、リザに向き直る。
「リザ。お前は、マールム家がどういう家系なのか、知っているのか」
「悪魔信仰の家系。だから、あなたを見張っていた」
「コルマールで俺を捕えなかったのは、どういうことだ?」
「『
「そういうことか……」
確かに俺は、闇系統魔法が使えない。
家名で怪しまれていたものの、決定的な証拠がなかったのだろう。
実際、街では一度も昔の話はしなかったし、端から見ればたいそう惨めに見えたはずだ。とても悪魔信仰の家系には見えなかっただろうな。
(リザが加入したのは、そんなに前のことじゃない)
パーティに加入したときに、俺に気がついたのだろう。
ずっと監視していたことを黙っていて動かなかったのは、決定的な証拠を握るためだろうか。
教会がその気になっていれば、いつでも捕まっていた。
そう思うと、今更ながら恐ろしい。
「ならどうして確信が得られた今も、俺を解放しようとするんだ」
「解放はしない。ただ、目的は共通している」
「目的……?」
「あなたの魔法技術は本物。あの男を止めないと大変なことになる。力になって」
「……教会の人間が、いいのか」
俺と手を組みたいと言っているのだろうが、正直信じられなかった。
ここまで腕を買ってくれる人間がパーティにいたとは思ってもみなかったが、相手は聖教会だ。亜人族の仲間を持つ、悪魔信仰の家系の人間なんて、嫌悪すべき対象のはずだ。
「そんなことを言っている場合じゃない」
しかしリザは予想外にも、俺の目を見て言い切った。
「このままだと街だけじゃなく、この世界が大変なことになる」
リザは真剣な表情を浮かべて俺に迫ってくる。
薄い表情の中に敵意はないものの、焦る気持ちを前面に浮かべていた。
騙そうという意図は感じられない。彼女は間違いなく本気だった。
「パウルを倒すまでの共闘だ。それが終わったら、街を出ていくぞ」
「……うん」
聖教会を避けていた俺は、その勢いに呑まれて、うなずいてしまった。
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