パーティを追放された俺は、里を追われた行き倒れエルフと長年の夢を叶えます! 〜魔法も弓も使えない最弱で最高の相棒と、俺の【代行魔術】のスキルで、最悪の人生が覆りました〜
第25話 ハラルドは夜更けの強襲を受ける
第25話 ハラルドは夜更けの強襲を受ける
篝火の焚かれる広場。
森中に散ってトロールを警戒していた狐族、俺とナタリーが集まっていた。
「状況を詳しく教えなさい。君は何を見たんだ」
村長のジェムが険しい表情で尋ねる。
全員の注目が、いちだんと若い狐族の男に集まった。
「人間族が、この村に向かってオークの群れを追い立てているんです!
本人はまだ興奮から抜けきっていない。
大慌てで、大袈裟な身振りで伝えてくる。
「それも一人や二人じゃない。十人以上の大変な集団です!」
「何ということだ……」
村長のジェムは、見張り役の狐族の男の言葉を聞いて、頭を抑えた。
いつトロールの襲撃が来るかわからない現在、人間族の襲来は厄介ごとでしかない。
このタイミングで来るのがギルドの人間だと言うことは、全員が重々承知している。
共闘がありえないことも、厄介ごとになることも理解しているのだ。
「街のギルドの人間は、我ら亜人族を嫌っています」
「間違いなく、この後も問題になるかと」
「どのように対応するべきしょう」
「ううむ……」
口々に問われるが、若村長のジェムも即答しかねていた。
「ジェム、我々に指示を下さい」
狐族の問いかけに、ジェムは重い口を開いた。
「この村は人間族と深い交流がある。問題を起こすわけにはいかん」
若い衆も、腕を組んでうなった。
「やはり、そうなりますか」
「ですが、荒れ狂った魔物が襲ってきたら、残った住居まで破壊されてしまいます!」
「確かに。何の対処もしないのは流石にいかがなものだろう」
「ううむ……」
彼らが即断できないのも無理はなかった。
ギルドと問題を起こせば、コルマールに出入りできなくなってしまうかもしれない。
そうなれば、町人と取引のある村は大打撃を被る。
「その件、俺が何とかしましょう」
俺が申し出る。
狐族一同の視線がいっせいにあつまった。
「ハラルドさん。大変ありがたい申し出ですが、我々には、あなたに支払えるものがありません」
ジェムが困ったような表情を浮かべた。
「その点は理解しています。この件で報酬を取るつもりはありません」
「何だって?」
「どうするつもりなんだ」
狐族の住人たちはざわついて、口々に疑問を口にする。
「ですがこれは我らの村の問題。ご迷惑をお掛けするわけには……」
ジェムの申し訳なさげな言葉を手で制した。
「こうしたほうが俺にとっても都合がいい。連中が来る前に、皆さんはどこかに隠れていてください」
獣人嫌いなギルドの人間がやってきたら、余計に話がこじれることは目に見えている。
狐族には隠れていてもらう方話がスムーズだ。
彼らにとってもそれは同じだろう。
村人たちは顔を見合わせたが、結局、有効な手立てが思いつかなかったらしい。
「よろしくお願いします、ハラルドさん」
深々と申し訳なさそうに頭を下げたあと、狐族は次々に森に飛び入っていく。
俺はそれを見送った。
「大丈夫なのですか?」
ずっと黙っていたナタリーが聞いてくる。
心配になるのも無理はない。
「大丈夫じゃないが、何とかするさ」
「大丈夫じゃないんですか!?」
「ギルドの連中を相手にする時点で、問題を起こさないほうが無理だ」
目を丸くしてびっくりするナタリーに、苦笑した。
「ですが、それだと……」
「問題が起きるとしても、俺が出た方がマシなんだよ」
すでにギルド内の評価が地の底まで落ちている俺なら、問題が起きても痛手にはならないのだ。
静かになった川辺の村で待った。
すぐに乱暴な足音が迫ってくるのが聞こえてきた。
「きたな」
松明の明かりが、森の合間に見えた。
その数は数十以上。さらに追い立てられている魔物の影を捉える。
「ナタリー、頼む魔法の準備を」
「はいですっ!」
魔物を討伐する。
ナタリーに視線を送って手を握ってもらう。魔力を受け取り、敵に対抗するための中級魔法を構えた。
魔物が飛び出してくるタイミングを見計らって発動させた。
「『グランド・スピア』ッ!」
『グォッ!?』
真っ先に飛び出してきたのはオークの体を、野太い土の槍が貫いた。
俺の倍の身長はある緑色の巨体。
だが目を見開き、僅かに痙攣したまま前にうなだれる。
それに続いて飛び出してきた、別な小柄なオークが驚いたように足を止める。
「もらったァ!」
背後から飛び出してきたギルド冒険者が、剣を振るった。
もう一匹のオークの瞳も、斬撃とともに見開かれてうつ伏せに倒れた。
『ギィィッ!?』
配下のゴブリン達はボス格のオークを失って戸惑った。暗闇から次々に飛んできた矢の雨に貫かれる。
『グギャァァ……!』
ゴブリン族の集団は倒れていく。
そうして、あらかた片付いたあと。
ごうごうと燃えるたいまつの灯りを持ったギルドの人間が出てくる。
「森を抜けたのか?」
「あのテント、まさかこんな奥で、誰かが野営でもしてるのか」
「バカ。どう見たって獣人の村だろうが。何だってこんな場所に……」
川辺の広場に出てきた数十人は、物珍しげにあたりを見渡した。
「ん、あそこに人影が……」
「おい、あいつ"疫病神"じゃないか! なんでこんな所に!?」
姿を現したギルドの連中の一人が、俺に気づいて声をあげた。
「おい。テメェがなんでこんなトコロにいやがるんだ」
中でもオークを切り裂いたリーダー格の男。デニスは不愉快そうに俺を見て唾を吐いた。
「……それはこっちのセリフだ」
一番会いたくなかった男。
金色の鎧を纏った双剣使いのデニスと、その仲間アリアネが立っていた。
他の三人のメンバーの姿が見当たらないことに気づいたが、それを尋ねる前にデニスが上から目線で煽ってきた。
「なるほど、そういうことか。てめえは俺たちの獲物を横取りに来たってわけだ」
「はあ?」
突然、意味不明な言いがかりをつけられて変な声が出た。
「その魔物は俺たちが追い立てたんだ。獲物の横取りは重大なルール違反だぜ」
「やってしまったわねえ。ハラルド」
返す言葉を失って、呆れ果てた。
「……俺はこの村から依頼を受けている。村の領域に魔物が入ってきたんだから、倒すのは当然の対応だろう」
「だからどうした。ギルドの依頼のほうが優先されるに決まっているだろう」
「村が壊滅したら、どう責任をとるつもりだ」
「ああ? こんな辺境に住んでいるカス種族の村なんて知ったこっちゃねえんだよ!」
背後で話を聞いていたギルド冒険者も、そうだ、そうだと、口を揃えて俺を非難した。
なんて奴らだ。
「お前は俺たちの獲物を横取りした。くくっ。この件はギルドにも、領主にも報告させてもらうぜぇ」
「事実は違うと思うが、本気か?」
「あら。追い出された相手の遠吠えなんて、誰が聞き入れないわよ」
「……まあ、好きにすればいい」
俺を追い詰めようとしているのだろう。
呆れるほかない。これの仲間だったのかと思うと頭が痛くなる。
「ハラルドさん。この悪い人間さんは、わたしたちを虐めているのですか」
「相手にしなくていいぞ」
少し怒った様子のナタリーをなだめる。
デニスは、ひたすら優越感をあらわにしながら煽り続けてくる。
「このクエストが終わったら、そこの田舎臭い薄乳女と一緒に裁判にかけてやるから、覚悟しておけ」
「何と!? 失礼な人間さんですね!」
「あら、事実じゃないの。哀れな子ねえ」
ナタリーもとばっちりで侮辱されて、いよいよカンカンに怒った。
アリアネが胸を揺らして笑みを浮かべた。
俺も一瞬、本気で魔法を撃ってやろうかと青筋を立てたが、その前に感知する。
「…………!」
デニス達から視線を逸らす。
魔力を感じた方角に視線を向けた。
森の中で何かが動いていることに気がつく。
かなり慌てた様子で、狐族の一人が手を振っていた。あれは目的の魔物が現れた時のジェスチャーだ。
ギルドの連中は気付いていない。
「別にオーク一匹くらい、くれてやる」
俺は怒りを抑えて、吐き捨てるように言った。
「欲しいなら持っていけばいい」
「そんなのは当然だ。テメェが破滅するまで追い込んでやる。覚悟しておけよ」
「街まで無事に帰れるといいな」
「あ? 何だその態度――」
デニスの言葉はそこで途切れた。
鈍くて、重い揺れが森から響いた。
その瞬間に俺とナタリーは背後に飛んで、デニス達と距離をとった。
「なっ何だ!?」
「デニス。何かおかしいよ」
ギルドの連中も、一瞬遅れながらも背後の存在を確認するべく振り返る。
強大な敵の姿を目の当たりにした。
誰かが、怯えたようにつぶやく。
「なんだ、あの、化け物は」
松明が照らし出したのは、魔物。
鈍そうな異形の顔と、体中の余分な脂肪。
刻まれた無数の古傷は過酷な森の生態系で刻まれたものだろう。
森の木々をゆうに超える巨体。
ゴブリン族の王・トロール。
夜闇の中から悠然と姿を表して、狐族の村を見下していた。
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