第14話 ハラルドとナタリーは初めての共闘に勤しむ


 食事と一騒動を終えた俺たちは、少し時間を置いてから街の外に出た。

 ナタリーは騒動で心細くなったのか、歩いている間は無言でそばによっていた。


 これから目指すのはナタリーの故郷。

 魔物狩りの地で、彼女の故郷でもある『竜神の森』だ。 


 街をでるべく来た時と同じ門に向かう。

 すると、門番が腰を抜かした。


「なんだその美少女!?」


 来た時とはまったく違う反応だ。

 そういえば来た時は俺のローブを着ていたので、ほとんど顔を見ていないんだったか。


「こんにちは……あのっ、通ってもいいです?」

「もちろん!」


 人見知りのような態度のナタリーが、怯えながらも上目遣いで頼み込む。

 それで番兵である二人はあっさりと落ちて、全力で頷いた。


 ……別に断られる理由はないんだが、すごいな。



 町を出た後、ナタリーは何度も不安そうに背後を振りかえっていた。


「怪しまれてしまったでしょうか……?」

「いや、あれは確実に大丈夫だろう」


 番兵は明らかにナタリーにベタ惚れだ。

 その気持ちは分かる。

 ナタリーは美少女だ。しかも自分の魅力に気付かないというおまけ付きでもある。

 宝石のような緑の瞳にキラキラ見つめられて、たまらなかっただろう。


 ……羨ましい。


「たまらんな……」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 自分にあの・・熱のこもった視線が向けられるところを想像して、つい心の声がこぼれてしまった。


「ところでナイフの使い心地はどうだ?」


 誤魔化して尋ねると、渡したナイフを大きく持ち上げてみせた。


「エルフの里で見るものと全然違います! 銀色で格好いいです!」

「薬草の採取や護身用に使ってくれ」

「これだけ切れ味がよければ、いっぱい活躍してみせますよ!」


 振ってみたり太陽にかざしたりして、子供のように興奮した。

 鉄を見るのが初めてなのかもしれないな。


 森に住む種族は動物の牙などを使っているので、エルフ族もきっとそうなのだろう。

 


「ついでに今のうちに聞いておきたい」

「はい! なんですか?」

「ナタリーは冒険に役に立ちそうな特技とかはあるか?」

「というと……?」


 こてんと首を傾ける。

 

「例えば森を動き回るのが得意とか、道を覚えるのが得意とか、そういうのだな。それを聞いてから役割を分担しようと思うんだ」

「ううむ……」


 パーティを組むとき、仲間が何をできるのかを知っておくのは必須事項だ。

 ナタリーは豊富な魔力を持っている。

 それだけでも十分だが、やはり他にも役割があってくれるとうれしい。


「俺の場合は、『スキル』以外だと……一人で森に入ることが多かったから、野営とかの知識はある。薬草の簡単な見分けくらいならできるぞ」


 少し考えてから、ナタリーを見た。


「そっちの分野は、エルフのほうが詳しいよな」

「はい。薬の素材になる植物は、見れば分かると思うのです」

「そうか。俺はそういう目利きは得意じゃないから助かる」


 森に生きる種族のほうが、一日の長があるのは当たり前だ。


「薬草採取は専門の冒険者が存在するくらいに難しい仕事だ。薬草は高く売れるから、貴重な薬草を見つけたら教えてくれよ」

「お任せください!」


 草原を歩いているナタリーは、嬉しそうにくるりと回って見せた。


「なら、魔物や薬草を見つける斥候をナタリーの役目に、実際に戦闘をこなすのが俺の役目ということにしよう」

「それで大丈夫です!」


 二人だから、こんなざっくりとした役割しか割り振れない。

 だが何を言っても元気のいい返事がかえってくるので、つい嬉しくなる。


(ナタリーを見ていると、昔の自分を思い出すんだよな) 


 俺がギルドの新人だったころは、こんな気持ちだったか。

 何もかもが目新しく感じて、熟練のパーティの役に立てるのが嬉しかったのだ。

 今では遠い、過ぎ去った過去の話だ。


「じゃあ早速、金稼ぎに出発だ!」

「おー、です!」


 森を前にして、俺とナタリーは二人で高々と腕を掲げあげた。


 昔のことなんか忘れて前を向く。

 空は晴れ渡っていて、絶好の冒険日和だ。






 ――『竜神の森』に、不穏な気配が漂った。


 普段とは全く雰囲気が異なっている。

 深い闇に包まれた遥か向こう側に、凶暴な気配が蠢いていた。


 意気投合した異種族パーティは動き始めた恐ろしい異変に、まだ気付いていなかった。

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