パーティを追放された俺は、里を追われた行き倒れエルフと長年の夢を叶えます! 〜魔法も弓も使えない最弱で最高の相棒と、俺の【代行魔術】のスキルで、最悪の人生が覆りました〜
第10話 ハラルドは行き倒れエルフを街に招き入れる
第10話 ハラルドは行き倒れエルフを街に招き入れる
竜神の森に、朝日が差し込んでくる。
新しい朝がやってきた。
鳥の声とともに、沈んでいた意識が闇の底から浮上してくる。
「ん……」
目覚めた俺はゆっくりと見回した。
魔法で作り出した土の柵が周囲を取り囲んでいる。
近くには、見慣れないものがあった。
地面でうつ伏せになって眠る美しいエルフの少女がいたのだ。
彼女の背中をゆさぶった。
「ナタリー、起きてくれ。もう朝だぞ」
「んんー……」
安心し切った表情で目を瞑っていた彼女は、ぼさぼさの髪のまま起き上がる。
「人間さんです……?」
新しい仲間は、まだ寝ぼけているらしい。
「ああ人間さんだ。食料が切れるから、今日は街に戻るんだぞ」
「ご飯がないのは一大事です……んんーっ」
ぴくぴくと耳を揺らしながら、大きく背伸びした。
改めて見ても、すごく綺麗だ。
里から追放されたエルフ族のナタリー。
まるで空想の世界から現れたように綺麗で、朝日に照らされた髪は黄金のような輝きを放っている。
小鳥のようにか弱くて、思わず守りたくなってしまうような魅力があった。
ぼんやりとしたままの彼女から目を逸らし、俺は先に野営の片付けを始めた。
「んー……そうです!」
ナタリーはしばらくぼんやりと座っていたが、唐突にはっとした表情になる。
「人間のハラルドさんと、仲間になったのでした!」
「思い出すの遅いな……」
「すっかり忘れていましたです。えへへ」
可愛らしく苦笑を浮かべたナタリーは、後ろ手で自分の頭を撫でた。
とんでもない美少女なんだが、抜けてるな。
(……しかし、まあ気持ちは分からなくもない)
俺だってまだ、志を同じくするかもしれない仲間ができたことが信じらないのだ。
近づいてきたナタリーは、そんな俺の様子を見て首をかしげる。
「どうかしましたですか?」
「いや何でもない。柵の魔法を解くから、また魔力を使わせてくれないか」
「分かりました!」
素直に差し出した手から魔力を貰って、魔法を発動させた。
土の槍に再び魔力が通って崩れていく。
元の土に戻ったら片付けは終わりだ。
「さてと」
「待ってください。それはわたしに持たせてほしいです!」
リュックを背負おうとすると止められた。
「夜営の道具がまとめて入ってるから、かなり重いぞ?」
「そのくらいは任せてください。心配しなくても荷物持ちは得意なのです!」
「そうか? じゃあ任せるよ」
細い体で持てるのかは疑問だったが、とりあえずカバンを渡してみる。
両手で持った瞬間。
ナタリーの表情が、曇った。
「お、おい。大丈夫か?」
「う……よしっ、大丈夫です。このくらい何ともないですよ!」
不安に思ったが、背負ったままその場で回転したり、ジャンプしたりしてみせた。
大変だろうし交代で持つことにしよう。
「これから人間の街に行くが、準備はいいか?」
「覚悟はできています。出発しましょう!」
彼女からすれば、未知の異種族の街に向かうというのに、かなり楽しそうだ。
変にプレッシャーを感じるよりいいか。
「出発だ!」
「おー!!」
俺はエルフの少女を引き連れて、竜神の森を出発した。
木々の合間を縫って二人で歩く。
これは最初の旅路だ。
「はぁっ、はぁっ」
そして俺は、エルフ族が想像以上に優秀であることを知った。
「魔物の気配はありません。進んで大丈夫です!」
「そうか……はぁっ、はぁ。ありがとう」
ナタリーは重い荷物を背負いながら、人間では考えられないほど身軽に木枝を飛び越える。たまにこうして、報告に戻ってくる。
さらに警戒も怠っていない。
視線を絶え間なく周囲に巡らせていた。
もしかして、下手な冒険者より優秀なんじゃないか。
彼女自身は戦闘ができないようだが、斥候としてかなり優秀なように見える。
エルフの基礎能力なのだろうか。
俺は数段階ナタリーの評価を引き上げた。
「こっちですよーっ! つまずきやすい木の根が多いので、気をつけてくださいー!」
「い、今行くから、ちょっと待ってくれ……!」
森暮らしでもなんでもない人間の俺は、ナタリーの後を追いかけるのが精一杯だった。
うかうかしていると置いて行かれそうだ。
次はもう少しゆっくり進んでもらうように言うべきだろうと、息をつきながら考える。
「森の外です!」
それでもなんとか森を抜けられた。
一番に飛び出したナタリーが目を輝かせた。
森の外は緑の草地がどこまでも広がる。
大平原だ。
こんな景色を見たのは、エルフ族の彼女は生まれて初めてだったのだろう。
「森の外を見るのは初めてか?」
「生まれて初めて、木の生えてない場所を見ました!」
「そこからか」
俺にとっては住み慣れた景色だが、彼女にとっては違うようだ。
ギャップに苦笑いしていると、ナタリーが遠くに街を見つけて指差した。
「あっ! あれが、人間さんの街ですか!?」
「ああ。あそこが俺が住んでいる街、コルマールだよ」
遥か向こう側に、巨大なレンガ外壁で覆われている街が見えていた。
このあたりでは最大の都市であり、周囲には川以外何もないので見つけやすい。
「あそこに行けば、美味しいものがいっぱい食べられますか!?」
「好きなだけ食っていい。おごるよ」
「本当ですか!?」
やったーと無邪気に喜ぶナタリーに、俺はローブを脱いで彼女にかぶせた。
ばさりと頭から布に覆われて、驚いた様子でもがいた。
「はわっ!? なにをするんですか」
「その耳は目立つからな。とりあえず頭だけでも隠しとけ」
ローブからひょっこり顔を出したエルフの少女は、それでなるほどと納得する。
「そういえばハラルドさんは、耳が長くないですね」
「お前の服もそうだが、その耳は目立つ。エルフだって分かったら騒ぎになるんだ」
「わ、わかりました、です」
ナタリーは素直にうなずいた。
俺が最初に出会った時に、驚いた様子だったのを覚えていたのかもしれない。
伝説の種族が見つかったら大騒動間違いなしだ。
言われた通りに、サイズの合わないローブをしっかり身に纏った。
……怪しい。
犯罪者にさえ見える。
だが、これで押し通すしかないだろう。
その格好のまま、俺たちは街道を進んだ。
途中では誰ともすれ違わなかった。そのまま壁にたどり着くと当然、構えていた門番に見つかることになる。
「お、お前っ、ハラルドか!? その子はなんだ!」
ぎょっとした二人の門番は、近づいてくる俺を認識して覚醒した。
槍こそ向けてこなかったが、疑うような雰囲気をひしひしと感じる。
用意しておいた言い訳を並べた。
「迷子になっているところを、森で拾ってきた。ナタリーという名前らしい」
「ど、どうもです……」
フードで耳も服も覆い隠しながら、俺の背中に隠れて挨拶した。
番兵は顔を見合わせて、俺に背を向けながらコソコソと会話し始める。
俺は聞き耳を立てた。
(エルフだとばれたわけじゃなさそうだな)
断片的に聞こえてくるのは『パーティから追放された』とか『ギルド中の噂の的』とか、そういった単語。
……つまり全て俺の話だ。
街で俺が悪目立ちしているおかげで目が逸れたのは、不幸中の幸いだ。
「いいだろう」
やがて話し合いを終えたのか、道を開けてくれた。
「一応確認するが、犯罪絡みじゃあないだろうな」
「違う。そもそも、俺のようなやつに騙される人間がいると思うか」
「それもそうか」
その一言で、兵士も納得した。
俺はこの街では悪い意味で有名人なのだ。
「分かっているとは思うが、やけになって問題を起こすなよ。通っていいぞ」
二人は道を開けて、俺はその言われように少し表情をしかめた。
だが無言で通り抜ける。
ナタリーも頭を下げつつ、いそいそと後をついてきた。
「あの人間さん、武器を持っていて怖かったです……」
街に到着すると、ほっと息をこぼす。
「ここからは離れないようについてきてくれ」
「もう、ここが人間さんの街なんですね」
ナタリーは初めての人間の街を、物珍しそうに見回していた。
あたりには木造の建物や、小さな畑が点在している。
他には柵で飼われた動物などがいるばかりの、のんびりとした景色が広がっていた。
「最初はどこに向かうんですか?」
「服を買いに行くつもりだ。まずは格好を整えないと、飯も食えない」
「なるほどですよ」
俺は納得したナタリーの手を引く。
コルマールの街の仕立て屋に向かった。
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