パーティを追放された俺は、里を追われた行き倒れエルフと長年の夢を叶えます! 〜魔法も弓も使えない最弱で最高の相棒と、俺の【代行魔術】のスキルで、最悪の人生が覆りました〜
第8話 ハラルドはエルフの少女と冒険者になる
第8話 ハラルドはエルフの少女と冒険者になる
俺はすぐに、この場所を襲ってきた連中の意図を理解した。
「昼のゴブリンの仲間か」
一度奪ったエルフを取り戻しに来たのだろう。
その証拠に、俺に対してはギィギィと警戒するように鳴いて、怯えている彼女には下位者を見るようなニヒルな笑みを浮かべている。
「ど、どうしましょう。このままじゃ二人とも殺されてしまいます」
「大丈夫だ。ゴブリンなんて大した敵じゃない」
俺は怯える彼女を励ましたが、顔をしかめていた。
最弱の魔物とはいえ、集団は厄介だ。
昼に出会ったゴブリンは六匹だったが、目の前にいるやつらは明らかに三十を超えている。暗闇の向こう側には、もっといるかもしれない。
(逃げることもできるが……)
厄介な状況だが、今の俺は一人ではない。何せ『魔法』を使うことができるのだ。
「魔法を使って対処する。急で悪いが、魔力を頼めるか」
「お、おおお、お願いします」
こくこくと何度もうなずいた少女に手を伸ばすと、やはり迷いなく繋いでくれた。
初級魔法よりも多い魔力を受け取る。
そして、もう片方の手に魔法を構築する。
『グギャァッ!』
痺れを切らしたゴブリンが襲いかかった。
悲鳴をあげたエルフの少女を気遣う余裕はない。
スキル『代行魔術』によって、より上位の魔法を発動させる。
「土系統中級魔法『グランド・ニードル』ッ!」
初級より多くの魔力を必要とするが、それは完璧な形で発動した。
地面から、まるで生物の肋骨のような形状の鋭い土塊が次々に突出する。
『ギィィッ!!?』
焚き火を焚いていた広場を覆うように生えてくるそれらは、飛びかかってきたゴブリンを突き上げ、跳ね飛ばした。
次々に放り上げられる。
どさりと落下した後は手足を投げ出した。
それを見た森の中に残ったゴブリン達は、怯えながら二の足を踏んだ。
「失せろ。これ以上近づくなら、こんなものじゃ済まないぞ」
『ギィ……ッ』
調子に乗れば、まだ襲いかかってくる。
睨み付けて威圧すると、動揺したゴブリン達は次々に逃げ出していった。
倒れた仲間の足を掴んで引っ張っていく個体が去っていくと、気配は完全に消えた。
(よかった……)
俺はほっと息をついた。
危なかったが、魔法のおかげで何とかなったか。
「すごいですっ! なんですかあの尖った魔法は!?」
エルフの少女は感動したように、握り合った手をさらに強く握りしめてきた。
その様子に、ゴブリンが現れたときよりも驚いた。
「お前、大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「中級魔法を使って、かなり魔力を消費したはずだ。体調が悪くなっただろう」
「いえ、まったく」
目をぱちくりさせるエルフは、まったく問題なさそうだった。
まさか魔力の欠乏を感じてないのか?
「それよりあんな魔法が使えるなんて、やっぱり人間さんは、凄いです!」
それどころか距離をつめて、感動した様子で意気込みながら心中を伝えてくる。
「そ、そうか……ありがとう。お前の素質がすごかったおかげだ」
「本当ですか!?」
「ああ。魔法が使えないのが不思議なくらいだよ」
俺がそう言うと、エルフの少女は顔を下げた。
「魔法の練習は……まあ、当然したんだよな」
一応尋ねると、うなずく。
「一人で練習もしましたし、里の人につきっきりで教わったりしました」
「そうか」
「みんなはできるようになったのに、わたしだけが、全然ダメだったのです」
……そこまでやって駄目だったのなら、本当に才能がないのだろう。
魔法の才能を持っていないのに、大量の魔力を持っている人間は今までもいた。
だから特段珍しいわけではない。
「どうだったでしょう。わたしはお役に立てますか……?」
エルフの少女は、目覚めることがなかった自分の素質を知らない。
だからまだ不安に思っていた。
俺の方からパーティを組んで欲しいと願いたいくらいだ。
(欲を出してもいいのか)
でも、それだけじゃ駄目だ。
高鳴る旨を押さえながら、口をぎゅっと噛み締める。
ギルドでパーティを組んだ相手は、金を稼ぐための関係でしかなかった。
だが、俺のスキルを受け入れてくれる相手がようやく現れたのだ。
俺の『夢』を叶えるための、仲間になってほしい。
そう思った。
「一つ、聞いておきたいことがあるんだ」
俺はエルフの少女をじっと見つめた。
「パーティを組む前に、俺が冒険者になった理由を聞いてほしい」
「…………」
「俺は世界中を旅して、何にも縛られないように自由に生きたいと思っている」
ギルドの人間に笑われて、語らずに胸に秘めておくようになった、俺の『夢』。
「いつかは今の街を出て、遠い場所に旅に出るつもりだ」
「それは、すごく面白そうです!」
それを真剣に、少女も魅力的に感じてくれているみたいだった。
「お前はどうだ」
「わたしですか?」
「ああ。今までには生きていくのに精一杯だっただろうが、これからは違う」
彼女には選択肢がある。
「人間の街に行けば、一人でも生活できるようになるだろう」
異種族とはいえ、これだけ可愛らしくて素直な少女だ。
エルフだとばれれば厄介だが、隠し通せれば仕事なんていくらでも選べる。
「お前が何を選択しても今の境遇から抜け出すのは、必ず手伝うと約束しよう」
答えを求められたエルフの少女は、首を横に振った。
「……どうなりたいかは、まだ分かりません」
俺は黙って言葉の続きを待った。
「でも」と、言葉を続けた。
「外の世界を旅するのは、きっと、すごく楽しいことだと思いました」
俺はその返答を聞いて嬉しくなった。
まるで幼い頃の自分のような、純粋で乗り気の少女に、手を差し伸べる。
「俺は人間族のハラルドだ」
ぱぁっと笑顔を浮かべた少女は、手を握り返してきた。
「わたしは、エルフ族のナタリーです。ナタリー・イブと申します!」
「ナタリーというのか。いい名前だな」
「はい! いい人間族のハラルドさん。よろしくお願いします……!」
追放された異種族の二人。
焚き火の前で微笑みながら頷き合った。
まだナタリーと出会ったばかりの夜の話。
だがこの日のことは、一生忘れない。
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