第7話 ハラルドは行き倒れエルフに魔法を披露する


 俺は、エルフ少女の無警戒な手を握った。

 これから、俺の『スキル』を受け入れてくれるかもしれない相手を試すのだ。


 もしだめだったら……。

 いざその時になると、怖くなった。


(そんなことを考える必要はない)


 嫌な想像を振り払う。

 そしてその時、あることに気付いた。


「手。かなり傷ついてるが痛くないのか」

「え? ああ。このくらい、すぐ治っちゃいますよ」


 本来なら綺麗な肌色をしていたのだろう。

 だが、森で行き倒れるまでの間に怪我をしたのだろう。無数の生傷がついており、痛々しくて見ていられないほどだ。


「最初は軽く、初級魔法から試してみるぞ」


 使う魔法は光系統の回復魔法でいいだろう。

 見様見真似で覚えた魔法を思い浮かべる。

 その間に、少女は戸惑った。


「わたしは何をすればいいですか?」

「スキルを発動したときに伝わってくる感覚がある。それを受け入れてくれればいい」

「分かりました。やってみます」


 目を瞑って集中し始めた。

 まあ実際にやってみれば分かるだろう。

 俺はいつものように、しかし緊張しながら『スキル』を発動した。


「『代行魔術』……!」


 俺の体が白色に輝いた。

 その光が触れ合った手の部分に収束する。

 スキルの感覚が肌を通して伝っていくと、エルフの少女は「ひゃっ!」と頬を染めて驚き声を溢した。


「大丈夫か!?」

「へへ、平気です……はぁ。魔力が流れるのって、こんな感覚なんですね」

「そうか。何ともないならよかった」


 純粋に驚いただけか、よかった。

 少女から伝わってくる魔力を探りつつ、魔法の構築を続ける。


 回復魔法の構築は苦手なので、慎重なる必要があった。その間、少女はまじまじと触れ合った部分を見つめていた。


「触られている部分が、なんだか温かくて不思議な感じがします。これが魔力ですか」

「ああ、魔力は持ってるみたいだな。これなら問題なさそうだ」


 初級魔法を発動させるくらいの魔力は、十分に持っているようだ。

 そのまま魔法を具現化させた。


「光系統回復魔法『ヒーリング』」


 かざした手から魔法を放つと、光の雨が降り注いだ。


「あ……」


 もともとの魔力の持ち主である少女の傷痕に吸い込まれていく。

 時間を巻き戻すみたいに。

 少しづつ少女の手は綺麗に戻っていった。


「傷が治っています……す、すごいです! 嬉しいです!」


 魔法が終われば、すっかり元どおりだ。

 両目を輝かせて自分の手を眺めた。無事に成功させた俺は息をついた。


「ふうっ。これが初級魔法だが、体調は大丈夫か?」

「はい。なんともないです」


 魔力を使いすぎると体調が悪くなることがあるが、その兆候はまったくない。


 魔力がないやつなら、発動さえままならないが……この様子なら、もしかすると中級魔法も使えるかもしれないな。

 魔力量には十分に期待できる。

 俺は思わず、笑みを作ってしまう。


「他の初級魔法も試してみよう」

「お願いします!」


 他にも魔法をいくつか使えば、それで才能が見えてくるだろう。

 俺たちは魔法の調査スタートさせた。




 そして――



 俺はすぐに、エルフ少女の才能を知った。

 その魔力は天才の持つ素質だった。


「じゃあ次の魔法を使うぞ……水系統初級魔法『ウォーター・ボール』」

「おおっ。水が浮かんでいますのです!」


 彼女は自分の魔力で作られた魔法、宙に浮かんだ水を見上げて感激していた。

 自分自身の魔力で作られていることが信じられないと、そんな表情がうかんでいた。


「土系統初級魔法『ストーン・クリエイト』」

「何もないところから、綺麗な石が出てきました……!」


 地面から出てきた緑色の石を見つめて、つついていた。

 俺はそれを拾い上げてみる。

 心なしか、今まで作ってきたものよりも質がいいように思えた。


「火系統初級魔法『ファイアー・ボール』……んんっ?」

「何も起こりませんね」

「失敗だな。火系統は、相性がよくないのかもしれない」


 俺が知っている初級魔法を使い続けた。

 その結果、彼女は十分な素質を秘めていることが分かった。


(魔力量も相当ありそうだし、使える系統も多い。これは凄い素質だな)


 俯きながら、そのことについて考える。

 数えきれないほどの相手の魔力を見てきた俺でも、驚くほどの潜在能力だ。

 所属していたAランクパーティ『赤蛇の牙』メンバーにも全く劣らない。


 しかも、これでまだ才能を調べきったわけではないというのだから驚きだ。


(これで魔法が使えないなんて、惜しいな……)


 俺の期待は膨らむものの、エルフの少女自身にとっては残酷だ。


 魔法を使いたがっているのに、魔力はあるのに才能がない。

 その事実に世知辛さを感じていると、彼女の様子がおかしいことに気づいた。

 何だか、怯えているみたいだ。


「どうかしたのか」

「ああっ……う、うしろ、です」


 少女は背後を指差していた。

 振り返る前に、何が起きているのか察知した。

 大量の、魔物の気配を感じたのだ。


 

 ガサガサと草むらをかき分ける音が複数響く。

 見ると、森から魔物が大量にゾロゾロと現れていることに気づいた。


「昼のゴブリンか……」


 全員が俺とナタリーを、魔物特有の赤色の瞳で睨んだ。

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