パーティを追放された俺は、里を追われた行き倒れエルフと長年の夢を叶えます! 〜魔法も弓も使えない最弱で最高の相棒と、俺の【代行魔術】のスキルで、最悪の人生が覆りました〜
第5話 ハラルドは行き倒れエルフに懐かれる
第5話 ハラルドは行き倒れエルフに懐かれる
「わたしは魔法も弓もだめで、里では最後までお役に立てませんでした」
エルフの少女は、そんな風に自分を語りながら深く落ち込んだ。
「だが今までずっと、この森で生きてきたんだろう。それだけで凄いと思うぞ」
「森の中で生きていけるなんて、当たり前のことです……」
力なく首を横に振られてしまう。
それで引き下がってしまいそうになるが、俺は諦めず、躍起になって彼女を褒めた。
「エルフは知らないかもしれないが。人間の俺なら、頑張っても一ヶ月くらいが限界だ。それ以上はとても森では生きられない」
「え、そうなんですか……?」
「ああ。生きているだけで凄いんだよ」
そんな風に語った内容は、本心だ。
だが一方で、見ず知らずの異種族に肩入れしすぎていることも自覚していた。
だって、放っておけないだろう。
里を追われた少女に、今の自分自身の境遇を重ねていることは分かっていた。
だから立ち直ってほしかったのだ。
「それに弓や魔法の代わりになる技術なんていくらでもある。外の世界は、それだけが全てってわけじゃないさ」
「わたしはエルフ族の中で一番弱いんです」
「そんなのは関係ない!」
「でも、行き倒れてゴブリンに袋詰めにされるへっぽこは森の中でもわたしくらいです……」
「うっ」
思わず言葉を詰まらせてしまう。
確かに最弱の魔物であるゴブリンに連れ去られたなんて街で噂になったら、一生笑い者にされてしまうだろう。
「気高いエルフ族の誇りを、わたしが汚してしまいました……」
地面に頭がつくくらいに、深く落ち込んでしまった。
凹み方はギルドを追放されたときの俺以上だ。かける言葉が見つからない。
「…………」
「…………」
静かな森の夜、焚き火の火が軽快にはじける音が響いた。
二人とも黙り込んで何も言えずにいる。
「なあ」
「何でしょうか」
先に口を開いたのは俺だった。
どうしても気になったことがあったのだ。
「これからどうするんだ?」
「……考えていません」
ある意味、当然の返答が返ってきた。
少女は膝を組みながら、焚き火の前で、泣きそうな顔をしながら沈み込んでしまった。
「わたしは、どうすればいいのでしょう」
それを見て、自分の頭をかきむしる。
何を分かりきったことを聞いているんだ。
この子は生きる場所を失ったんだ。自分の行く末分かっていたら、今こうして悩んではいない。
(だが、俺にはどうすることもできない……)
全てから見放された少女は、きっとこのまま野垂れ死んでいく。
それを想像するだけで、体の奥底がゾワゾワするような嫌な気持ちになった。
「あの、人間さん」
「何だ?」
俺は顔を上げた。
今度は、不思議そうに俺を見ていた。
「人間さんは、森の外に縄張りを持っていると里では聞いていました」
「ああ、その通りだ」
「どうして、わざわざ魔物の出る危ない森に入ってきたのですか?」
その問いに少し考えた。
もちろん金を稼ぐため……だ。
しかし俺は長年冒険者を目指して活動してきたのだ。単純にそれだけが理由ではない。
知らない相手なら、話してもいいだろう。
「俺が冒険者を目指しているからだよ」
「ぼうけんしゃ?」
知らない単語に首を傾げる。
「冒険者っていうのは、いろいろな場所を旅して生きていくやつのことだな」
「旅ですか……! それで、この森にも来ていたのですね!」
冒険者については知らなくても、イメージは伝わったらしい。
追放された今となっては、遠すぎる夢だ。
「ではこの森の外の世界も、見たことがあるんですか!?」
「ま、まあ、いずれはそうしたいな」
真っ直ぐすぎる視線を受けて、ギルドから追放された俺は居心地が悪くなる。
「すごいです。人間さんは、すごい人間さんだったんですね!」
憧れのまなざしが、心に深く突き刺さってダメージを受けた。
今の俺は、そんなに上等な存在ではない。
かつて憧れた"冒険者"を名乗るだけの底辺でしかないのだ。
(なんだか、昔の俺を見ているみたいだな)
一方でエルフの少女は『昔の自分』のようだった。
初めて訪れたギルドを見上げて憧れていた頃。
わくわくして何にでも興味を持った、幼い頃の自分自身を見ているみたいだった。
「決めました!」
急に叫んで立ち上がった。
驚きつつ見上げる。
「どうしたんだ?」
「人間さんを、いい人間さんだと見込んで、お願いがあります……!」
少女は意気込みながら迫ってくる。
悲観的な空気とは違って、強い決意と必死さが伝わってきた。
まさか。
その時点で、彼女が何を言わんとしているのかを悟ってしまった。
「わたしは弓も魔法も使えない役立たずのエルフです。それでも、少しくらいはお役に立てると思うのです」
胸に両手をあてがい、綺麗な緑色の瞳を見開きながら申し入れてくる。
「わたしを、あなたの冒険に一緒に連れて行ってほしいのです!」
そのときは、その申し出に心奪われなかった。
だがきっとそれが、停滞した人生を変えた分岐点だった。
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