パーティを追放された俺は、里を追われた行き倒れエルフと長年の夢を叶えます! 〜魔法も弓も使えない最弱で最高の相棒と、俺の【代行魔術】のスキルで、最悪の人生が覆りました〜
第2話 ハラルドはゴブリンの群れを討伐する
第2話 ハラルドはゴブリンの群れを討伐する
パーティから追い出された翌日。
俺はコルマールの街で憤っていた。
「くそっ。ふざけるなよ、あいつら……!」
曇り空の下で、硬く拳を握り締めて怒りを堪える。周囲の人間にジロジロと見られたが、今だけは気にならなかった。
手元には×印のついたギルドカードが握られている。それを見るたびに、はらわたが煮えくりかえった。
パーティ脱退の手続きを済ませた俺は、ギルドカードを受けとるついでに、口座から当面の生活資金を引き出そうとした。
『預けている銀貨を、とりあえず五十枚出してくれ』
『できません』
『は?』
頷くはずの受付嬢は、俺の目を見ながら真っ直ぐに否定した。
俺は、断られた理由が全く理解できなかった。
『どういうことだ? 今までの報酬ぶん、金は預けていただろう』
『ハラルド様の預金は、これまでのパーティ活動の経費支払い等に当てられることになっておりまして、すべて凍結されています』
そう言って受付嬢は机に書類を出してきた。
ギルドの印と、パーティ『赤蛇の牙』のサインが施されてる。
確認して、何が起きたのかをようやく理解した。全員で分割すべきパーティの活動資金が、すべて俺の負債になっていたのだ。
『ふざけるなッ!! こんなことがあるか!』
『ふざけてなどいません。残金の支払いを行うまで、ハラルド様のギルド資格は剥奪されます』
俺の怒りを無視して、淡々と無効化されたカードだけが返却された。
俺は信じがたい気持ちで見ていた。
身分や所属パーティ、ギルドランクなどを示すために存在している。
だが今は赤の×印が刻印されていて、ほとんどの項目が参照できなくなっている。
これでは身分証明書でさえ使えない。
そして、もう一方の書類。
パーティの活動費用の請求の一覧だが、遠征費や賠償金の名義が全て俺個人になっていた。
分配金も明らかに少なくされており、個人の口座と合算しても、記された残高はマイナスとなっている。
『他人が稼いだ金を、パーティリーダーが勝手に奪うなんて、許されるのか!?』
『規則ですから』
『そんな馬鹿な。誰がどう見ても違法だろう!』
『何が違法なのかを説明していただれば、話を聞きましょう』
受付嬢は聞く耳を持たなかった。
俺は歯噛みする。提示するべき書類はパーティとギルド側が持っているため、俺の手にはないのだ。
これは不正だ。
しかし追放した俺に割りを食わせても問題ないと思っているのだろう。
噴水の前に座り、深く息をついた。
負わされた借金は百金貨。
平民が何十年もかけて稼ぎだす額だ。
「ギルドも、俺なんていらないってことか」
ギルドは街中から割のいい依頼が集まるクエストの溜まり場だが、返済するまでギルド資格が剥奪される。
仕事をしなければならないのに、受けられないのだ。
相手も返済を期待していないのだろう。
半ば積みのような状態に陥った。
「だめだ。ここにいても気が滅入るだけだ」
首を横に振って、悪い気分を振り払う。
ポケットを確認すると、残金はまだそこそこ残されている。いざという時のために残しておいた金だ。
数十日は、食いつなげるだろう。
「しばらくは魔物の素材を売って暮らすしかないか」
ギルドでクエストを受けられないのなら、魔物の素材を売って稼ぐしかない。
俺は惨めな気持ちで立ち上がり、魔物狩りに出発することにした。
コルマールの街の傍に位置する、竜神の森。
最弱の魔物から、人間を遥かに凌駕する能力を持った恐ろしい魔物が生息するその場所に足を踏み入れていた。
「……これで、今日の宿代くらいにはなったか」
森の魔物を倒した俺は、暗い気分をまだひきずっていた。
これだけ頑張っているのに、なぜ報われないのだろうかと思ってしまう。
「こんな調子じゃ駄目だ。今は集中しろ」
首を横に振って悪い想像を振り払った。
次の魔物を探るために、目を瞑って意識を研ぎ澄ます。
すると、不思議な感じがした。
「何だこの不自然な魔力は……?」
普段とは違う。
森のどこかから不自然な魔力を感じた。
人でも魔物でもない。
今までに感じたことのない種類のものだ。
(行ってみるか)
奇妙に思いながら、その気配の元を調べるために移動する。
木陰に隠れながら様子をうかがうった。
(あれは、ゴブリンか)
気配のもとにたどり着くと、獣道の合間を縫って移動する生物の姿を確認した。
ゴブリンの群れだ。
不自然に大きい布袋を四人がかりで担いでいる。感じている不自然な魔力の気配は、そこから感じられた。
(冒険者の荷物か? 随分とでかいな)
おおかた盗品だろうが、中に何が入っているのだろうか。
「魔法が使えなくても、ゴブリン程度なら……」
……取り戻せば持ち主から謝礼が貰える。
俺は討伐を決意して、懐から銀色のナイフを取り出した。隙を見て一気に駆け出して、最後尾のゴブリンを切り裂いた。
「ギッ!?」
奇襲を受けたゴブリンは、慌てた様子で布袋を取り落とした。
「ふぎゃっ!?」
「ん……!?」
地面に打ち捨てられた袋から甲高い声が聞こえて、思わず立ち止まった。
俺の見せた隙をついて、歯を見せながら威嚇して一斉に襲いかかってくる。
だが、すぐさま転身した。
「無駄だ!」
武器を持たない五匹程度のゴブリンなんて、脅威ではない。
冷静さを失うこともなく全部倒した。
倒れたゴブリンを見下ろして、息をつく。
「はぁっ……これで全部か」
額の汗をぬぐった。
ゴブリンは集団で生きる、繁殖力の強い厄介な魔物だ。
他に仲間がいれば厄介だったが、幸いにも今倒したのは"はぐれ"だったようだ。
周囲を警戒して何もいないことを確認しつつ、改めて向き直る。
「さっきのは、人の声だったよな」
俺がそう呟くと、びくっと袋の中身が震えた。
さっきから感じている奇妙な魔力の気配は、布袋のほうから漂っているようだ。
何が入っているんだ……
警戒しながら、傷つけないように慎重に袋の口をナイフで切り裂いた。
「お、おい……嘘だろ」
俺は目を疑った。
薄汚い布袋の中から現れたのは、信じられないほど美しい少女だったのだ。
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