パーティを追放された俺は、里を追われた行き倒れエルフと長年の夢を叶えます! 〜魔法も弓も使えない最弱で最高の相棒と、俺の【代行魔術】のスキルで、最悪の人生が覆りました〜

日比野くろ

第1話 疫病神の魔法使いはパーティを追放される

「ハラルド。お前は、俺のパーティには、もういらねえ」


 所属しているパーティがAランクに昇格した夜のことだった。 

 周囲の人間全員の視線が俺に集まった。

 額から汗がつぅと滴り落ちる。


「なんでだ。ギルドランクが上がったばかりなのに……!」

「だからだよ。お前はもう、Aランクのパーティには相応しくねえんだ」


 パーティリーダーの双剣士デニスが、酒をあおりながら俺を指差した。

 赤く染まった表情で俺を見下している。

 拳をかたく握りしめた。


「俺はちゃんと仕事をしていたはずだ!」

「勘違いするな。今までの依頼は俺たちが優秀だったから成功したんだよ」

「俺は、何の役にも立てていなかったってことか」

「わかってるじゃねえか。だが、それだけじゃねえぞ」


 あまりの仕打ちに言葉を失っていると、デニスは追い討ちをかけてきた。


「全員お前のことを煙たがっているんだ。お前がいるだけでギルドにとってマイナスなんだ、分かるか?」

「…………」

「全くその通り。貴殿は我らのパーティには不要だわい」 


 横から口を挟んできた白髪の爺がいた。

 メンバーの重戦士マティアスだ。

 彼がもともと俺を嫌っていたことは知っていたが、はっきり拒絶されたのは初めてだ。

 首を横に振って、冷ややかな視線を送ってきていた。


「お前も同じ意見なのか……?」

「儂は、お主をこのままパーティに在籍させ続けることには反対じゃ」

「そうね。あたしも、あんたなんか必要としていないわよ」


 俺の震え声に、別なメンバーの女性が答えた。

 支援魔法使いのアリアネ。

 踊り子のような格好の彼女は、艶やかな動きで、リーダーのデニスの首に腕を絡めた。


「あんたは、あたしらから魔力を貰わなきゃ戦えない役立たずよ。"疫病神"の力なんて、もう必要ないの」

「でも、そのおかげで今まで強力な敵とも戦えていただろう!」

「くふっ」


 俺が反論のために大声をあげると、デニスは失笑した。

 そして同時に、ギルド中が沸き立った。


「勘違いするな、おこぼれで成り上がっただけの卑怯者!」

「お前は、俺たちがいるから今まで戦えたんだ!」

「疫病神はギルドから消えろ!」

「思いあがるんじゃねえ!」


 声をあげたのは『赤蛇の牙』のメンバーではない。それまでの話を聞いていた、ギルドに所属している構成員達だ。

 大量の味方を得たデニスが、ニヤつきながら空の酒瓶をどんと机に叩きつけた。


「はっ。とんだ勘違いだったなあ、ハラルド」


 マティアスは腕を組んだまま目を瞑る。

 アリアネも侮蔑する視線を送ってくる。

 ギルドの構成員達は、俺を蔑むような野次を投げ続けている。

 この場にいる全員が俺の敵だった。


「分かったか? お前は、俺たちのパーティにも、ギルドにもふさわしくないってことだ」


 俺は反論するのをやめて口を閉ざす。

 どうやら、ここまでのようだ。


 一瞬、ギルドで今までにあった様々な出来事が逡巡した。

 ほとんどが嫌な思い出ばかりだったが、全部今日で終わりだ。

 諦めるほかに選択肢はなかった。


「ああ、よく分かったよ……だが絶対に後悔するぞ」

「はははっ。後悔だと?」


 デニスはますます口角を釣り上げる。


「お前のように中級魔法を使えるやつなんて他にもいる。自惚れているんじゃねえぞ」

「何だって……?」


 予想外の反論に、思わず反応してしまった。

 それほどの使い手なんて早々いるはずがない。


「中級魔法を仕えるようなやつが、この田舎にいるわけないだろう」

「ハハハッ、残念だったな! 魔法使いは代わりのやつを見つけてあるんだよ」


 デニスが腕を上げて、ギルド内の誰かに合図を飛ばした。


「来な!」


 呼びかけると、今まで俺を煽っていた群衆が横に割れた。

 優男のような笑顔を浮かべた彼は、自分の背丈ほどある絢爛な金色の魔法杖を握っていた。

 俺の前にやってきて、にこりと笑顔を浮かべて見せる。


「初めまして。あなたの代わりに『赤蛇の牙』加入させていただくことになりました、魔法使いのペーターです、どうぞよろしく」


 敬語を使って俺に挨拶をしてくる。

 だが笑みの裏の侮蔑の感情が伝わってきて、顔をしかめた。

 この街で初めて見る顔だ。

 おそらく、よその街からスカウトしてきたのだろう。


「代わりが見つかったから、俺はお払い箱ってわけか」

「ペーターは王都のAランクパーティに所属していた魔法使い。お前と違って、正しい"格"を持っている男さ」


 机に両手を置いて、いやらしい笑みを浮かべながら顔を寄せてくる。


「お前に魔力を盗まれるのは、ギルドの全員がうんざりしているんだ。出て行けよ、"疫病神"のハラルド」

「……分かった。そこまで決まっているなら、もう言うことはない」


 周囲がデニスを称賛する。

 そんな逆風の中で、俺は席を立った。


 特別な事情がなければ、パーティに同じ役割の人間が加入することはない。

 ここまで話が進んでいる以上、俺は出ていくほかない。

 

「今日限りで、パーティを抜ける」

「承りました」


 待っていたように近くに立っていた受付嬢に、自分のギルドカードを渡した。


「では手続きを行いますので、明日カードを受け取りに来てください」

「ああ……」


 受付嬢は何の感情もなく、奥の部屋に引っ込んでいく。

 こんな形で終わるのかと思うと、本当に嫌な気分になった。


 パーティの座を追われることが確定した瞬間、周囲がいっそう沸き立った。


「世話になったな、デニス」


 最低限の礼を込めて頭を下げるが、すでにデニスは俺を見ていなかった。

 聞こえていないはずがないので、無視されたのだろう。

 舌打ちしたい気持ちを堪えて踵をかえし、ギルドの外に出るための扉をくぐった。


「あばよ、疫病神のハラルド!」


 誰かが、俺にそんな声をあびせかけて、建物の中がより一層盛り上がった。


 無情に木製の扉が閉まる。

 街の新しいAランクパーティの誕生と、俺の追放を祝う声があがった。


「また、一人か」


 対照的に夜街には人の気配がなく、もの悲しい雰囲気だ。振り返ってギルドの建物を見ていると、寂しさを感じた。

 パーティへの貢献が最後までかえりみられることがなかったのは、悲しかった。


 もう二度とここでパーティを組むことはないだろう。

 暗い感情を抱えたまま、立ち去った。




 だが、このとき。

 誰一人として、これが最悪の選択であったことを理解していなかった。

 全員がこの追放を後悔するまで、それほど長い時間はかからない。

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