開花16

 段々と時が進んでいく

 追体験するのではなく、映像を見ているようだ

 その映像はどんどん時が進み、やがてあの時、あの場所の映像に切り替わった

「ここは、私がバードと式を挙げる予定だった教会・・・。この教会の近くだったな。バードの死体が見つかったのは」

 婚約者だったバードは教会近くにあるヴィータの隠れ家で見つかった

 かつてはその場所でヴィータとよく遊んでいた

 そんなことすらもう忘れていたが、ここに来て色々と思い出している

「姉さん、なんで・・・」

 映像から今度は現実のように入れ替わり、体が動くようになった

 そのまま歩いてヴィータの隠れ家、研究室の方へと歩いていく

「この奥、ここが姉の研究室になってたなんて思っても見なかった」

 思えば結婚式の数ヵ月前からヴィータの様子はおかしくなっていた

 元々研究家気質だったが、それが加速し、家族にも姿を見せなくなっていた

 あれほど可愛がっていたエーテのことも目に入っていない様子だった

 彼女の研究は魔法

 魔力が高く、エーテの世界では数人がかりでも苦労する大魔法を一人で行使できるほどの実力を持っていた

 魔法の使えないエーテにとって、姉のヴィータのことは自慢だった

 優しく聡明

 そんな彼女の異変に自分は気づけなかった

 そして事件は起こった

 様々な人間を実験体にし、魔法の研究を行っていたのが露呈したのだ

 ただこの研究は数ヵ月前、ヴィータがおかしくなり始めた頃から始まっている

「開いた」

 扉は簡単に開き、その奥にヴィータの研究室が見えた

「ああ、く、ダメ! 私から出ていけ!」

「無駄ぁ、無駄だよぉ。クハハハ、お前の体、もう奪ったからねぇ」

 姉の声が響いている

 一人で会話しているようだ

「もう、やめて・・・。これ以上、人を傷つけないで」

「お前が私を呼んだ。だからもう無駄無理。お前は私のもの」

 そっと様子を見てみると、ヴィータの姿が見えた

 一人だ

 一人でまるで演じているかのように人格が変わっている

「お願い、せめて妹だけは、あの子にだけは手を出さないで」

「駄目だね。お前の苦しむ心が私の糧だ」

 エーテは理解した

 姉は何かに乗っ取られた

 あれは姉であって姉ではなかったのだ

「そうか、なら次会った時は、体を返してもらわないとねぇ」

 エーテは希望が湧いた

 ヴィータはまだ助けれる

 そう理解したとたん目が覚めた

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